メイギカ 第3章 第39話 〜王子御一行再び〜
「いらっしゃいませー!…あっソラ!いらっしゃい」
「こんにちわ遙、これお土産」
「おおー!リグルの木の実パイ!こんないっぱいいいの?」
「うん。おばさんが作りすぎたから持ってけって。私と大地だけじゃ食べきれないから」
「わぁ〜おいしそう。ソラはもう食べた?」
「ううん。まだよ」
「そっか!じゃぁ一緒に食べようよ。ちょうど今区切りいいし。来夜さん呼んでくるね」
「それでね…来夜さんが声かけたら驚きすぎて椅子から転げ落ちてさ、それにもびっくりしたのか半分寝ながら天変地異だって騒ぎだしてさ!」
「そーそ、もう大変だったのよー」
「ふふっ」
3人はパイをおやつに、お茶をして何でもない話で盛り上がっていた。
天空はすっかり体力も回復し、少しづつ以前の生活に戻っている。
遙はそれがすごくうれしかった。
お礼を言おうと、もう一度王都に出向き漉羅に会ったが、「お礼とかいらないって言ったでしょう。さっさと戻りなさい」と軽くあしらわれた。
ミズやリッカには会えたので伝えると、我が事のように喜んでくれた。
結局漉羅と来夜の間に何があったのかは分からずじまいだったが、無理に聞くことはしなかった。
「よっこいしょ」
ふいに、おばさんくさいセリフと共に来夜が立ちあがった。
来夜に対し年齢の話題は禁句のため、おばちゃんみたいなどと突っ込みたい気持ちをこらえ遙が聞く。
「来夜さん、どうかしました?」
「ああ、そうそう。今日皇羽たち来るから支度してくるわねー。天空、まだいて大丈夫よぉ。遙は後で手伝ってねー」
そう言ってキッチンに消えた来夜を見送り、天空がつぶやく。
「いつも思うけど、遙ってうらやましいわね」
「?なんで?」
「えーだって、王子様よ!もしかしたら玉の輿とか乗れるかもしれないのよ!」
「やーさすがに無理でしょ。貴族って結構身分気にするみたいだし」
「そっかー。でもいいなぁ。皇羽様。本当にカッコいい…。でも晴さまも頼りがいがあって男らしくて…永遠様もクールな雰囲気が素敵…」
うっとりする天空。案外ミーハーな部分があるらしい。
「確かに…」
王子御一行はどれも美形ぞろいだった。
ただ遙は、王子たちよりも会いたい人がいた。
(仁さん…)
ジンとはあれから会っていない。次の日遙が起きた時にはもう町を出ていたようだ。
会いたいのだが、あの出来事を思い出すとなんだか気恥しく思い、ジンが現れないことにホッとしている部分もあった。
意識を失う前に感じた感触。
思い出すと胸がざわざわして頭がいっぱいになる。
いつもジンが店を開く通りに行くたび、彼の姿が見えないことに落胆する。
なんだか苦しくてジンに会いたくなる。でも会ったらどんな顔をすればいい。
その話を前天空に言うと、「恋ね」と断言された。
ただ遙は恋のなんたるかを全く知らないため、この症状が「恋」ということが分かっても、特に意味はなかったが。
「遙ー。手伝って〜」
「あっはーい」
天空の美形談話を聞いているうちに時間が迫ってきたようだ。
天空は帰り、遙は準備を始める。
店のプレートを「へいてーん」にかえ、床をはきなおす。
諸々作業をしていくと、カランカラーンとベルが鳴り、ぞろぞろと男たちが入ってきた。
「ちわーっす!」
晴が元気に挨拶する。
「来たわねー」
来夜が軽食を持って皆を席に促した。その来夜の持っていた盆を受け取り、一人が話しかける。
「お久しぶりですね。来夜」
「そーね。ふうちゃん」
「…お変わりないようで安心致しました」
皇羽、晴、永遠、紫穏まではわかるのだが、今来夜と話した「ふうちゃん」なる人物と、後ろのほうで腕を組んで立っている怖そうな青年、一番後ろでにこにこしている獣人は遙は今まで会ったことのない人たちだった。
「こんばんは、貴女が遙さん?」
「あっはい。はじめまして。遙です」
ふうちゃんが話しかけてくれた。遙も笑顔で応対する。丁寧な物腰で優しそうな人だ。人と言うよりは精霊族に近い容姿をしている。
背中には薄い羽根が生え、尖った耳に腰まであるプラチナブロンド。背が高く中性的で、これまた整った容姿をしている。
女性だか男性だか遙には判別がつかなかった。
「来夜や皇羽様たちからお話を伺いましたよ。来夜にいじめられたら私におっしゃって下さいね。あ、私は星天 楓流(せいてん ふうる)と言います。よろしくお願いしますね」
「ふうちゃん。あたし遙いじめてないから。遙もふうちゃんって呼んであげなさい」
「あはは…ふうちゃん、よろしくお願いします!」
遙が素直にそう呼ぶと、楓流の笑みが多少ひきつった。
「遙ちゃん、お久〜」
「お久しぶりです!晴さん!永遠も!」
「よう」
馴染みの二人にあいさつし、そっと尋ねる。
「ふうちゃんは今挨拶してきたんですけど、あの二人はどなたなんですか?私から話しかけるべきか迷っちゃって」
メイギカには身分制度がある。
制度と言うよりは慣習に近い位置づけだが、一部貴族に身分に強い固執を示す人もいれば、晴のように身分差を全く気にしない人もいて、一概には対応法がないのが現状だった。
身分差が上の者に、下は口をきくことも許されない。身分差別するものにはこういった考えを持つ人も珍しくなかった。
来夜のおかげで図らずも貴族方との接触が増えることとなった遙は来夜にそんなことを聞き、迂闊なことをして失礼してはいけないと晴に聞いてみたのだった。
「ああ、あの怖そうな人が翠霞 景覇(すいか けいは)、オオカミおじさんが琳 緋人(りん ひいと)。京覇殿は軍の総司令官で、オオカミさんは軍の隊長だよ。あいさつしに行く?」
「あっはい」
「じゃあ先オオカミさんにあいさつしようか。…カミさーん!」
「おう。晴」
カミさんこと緋人は、オオカミかと言うとそうでもない。笑って歯が見えると立派な犬歯があるくらいだ。爪は鋭く少し長かった。尻尾は…生えていない。見た感じは普通の人だ。30代後半ぐらいに見える。
遙は獣人を見るのは初めてではなかったのですんなり受け入れた。
獣人はけものが二本脚で歩くわけでも、人が獣みたいな恰好をしているわけでもない。
人型と獣型、二つの形態をとることができる種族を言う。
緋人も自分の意思で、獣型―狼に変化できるのだろう。
ちなみに普通の狼と獣人の狼では、外見ではほとんど変わらない。獣人は魔法を扱えるものが多い。その程度だ。
ある意味狼の中の違う種類と言えるだろう。
「カミさん、この子、耀ちゃんの新しいお弟子さん。遙ちゃん」
「よろしくお願いします!遙です」
カミさんは人懐っこそうな笑顔を浮かべ頷いた。なんとなく顔つきが犬っぽいなと遙は思った。
「よろしくな。遙、おれのことは遠慮なくカミさんと呼んでくれ」
「はい!カミさん」
「景覇殿にはもうあいさつしたのか?」
カミさんがちらりと強面の青年を見て言う。
「いえ。まだです」
晴が答える。
「じゃあ、おれと行くか。遙、おいで」
遙は多少びくびくしながらすでに席に座っている景覇のもとへ向かった。
景覇は相変わらず気難しそうに腕を組んで座っている。軍の総司令官と言う肩書きはどれほどすごいのか遙にはわからないが、晴やカミさんより上の立場にいるのは彼らの態度から間違いないようだ。しかし景覇はカミさんより若く見える。20代後半から30代ぐらいだろう。
能力のある人物らしい。
「景覇殿、耀師の新しいお弟子さんがいらっしゃってますよ」
「は、はじめまして。遙です」
緊張気味の遙に対し、景覇は一瞥のみでぼそりとこういった。
「なぜここにいる。一般人は引っ込んでいろ」
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