メイギカ 第1章 第12話 〜魔人であるということ〜
「メイギカへいくんでしょ?行くよ」
そうして、仮面の男は森の奥へと歩き出した。
顔が青ざめた隊長は、これ以上突っかかってくる気はなさそうだ。
怪我をしているようだが、助けてあげるお義理もないので遙は仮面の男についていった。
まぁたぶん大丈夫だろう。神経図太そうだし・・・
途中、仮面の男は律義にまだプスプスと燃えている機械の消火をした。
機械は置いたまま、改めて歩き出す。
遙はいろいろ聞きたいことがあったが、聞く雰囲気ではない感じがしたので黙ってついていった。
もう黄昏時で暗くなり始めたにもかかわらず、彼は人もあまり通らないようなけもの道を、勝手しったるがごとく進む。
まだ全部とめていなかったらしい服のボタンを留めながら、遙の様子を見つつずんずん進んでいった。
遙はそれについていくのに必死だった。彼は時たま立ち止るとあたりの植物を見て摘んだり、落ちている実を拾ったりしてはリュックに放り込んでいる。
そのまま少し歩いたころ、遙はたまりかねて質問をした。
「あのー…何を拾ってるんです??」
「ああ、これ?薬になるからね」
薬か。やっぱり彼は薬屋さんなのだろうか。しかもタダ者じゃない。
でもお医者さんという可能性もある。
そんな事を考えていると、張り出した根っこにつまずいてバランスを崩した。
「わっ」
「平気か?」
転びかけた体をつかまれ引き起こされる。仮面で隠された顔が近くなると、さっき言い合いしたことや泣いたことを思い出してしまい思わず赤くなった。
「あっ…さ、さっきはごめんなさい」
「え?」
「あ、さっき、変に言い合いしちゃったし、それに…」
「ああ。俺は何回も平気だって言ったのに、君が囮になるとかいったやつか」
「うっ…ごめんなさい」
「いいよ。俺に迷惑をかけまいって言うのはよくわかったし」
「それに、泣いたし・・・」
「…君はどうしてあいつに追われていたんだ?いったいどこから…?」
遙はこれまでの話をした。
端の村での生活。魔人狩り。機械が作動しなかったこと。これまでの旅。メイギカへの憧れ・・・
気がつけばまた涙がひとりでに溢れ出してきていた。
生まれてからずっと、魔人であることを隠し生きてきた。自分のことを偽らないで人と接することができたことなんて、母親に対してしかない。
母が死んでからは、メイといるときだけが魔人である自分を素のままで出せた。
この旅が始まってから、遙はメイギカだけを希望として、できるだけ目立たず、人とはかかわらず、魔人であることももちろん出せずに、たった一人。
魔人狩りで逃げた女、という言葉を聞いただけでおびえ、機械を恐れ、死にたくないと願い続けてやってきた。
こうして、魔人である自分を救い、そのことを隠す必要もなく、ありのままの自分の話を受け止めてくれる存在がいるということ。
それだけでも、彼女にとっては涙が出るほど幸福なのだった。
仮面の男は、涙ながらに語る彼女の話を頷きながら静かに聞いていた。
マントの裾で遙の涙をそっとぬぐう。
話しているうちにどんどん涙があふれてくる。遙は、嗚咽を漏らしながら、泣きに泣いた。
気がつけば、遙は仮面の男にしがみついて大泣きしていた。
話し終わっても遙の涙は止まらなかった。
遙は泣きすぎてぼんやりした頭で、また泣いてしまった、と思った。
でも、つかえが取れたみたいにすがすがしい気分でもあった。
若干顔をあげるのが恥ずかしい気分になったが。
「・・・ごめん、なさい。私ってば、また…泣いちゃった」
「つらい時は泣けばいい。俺はあまり気の利いたことは言えないけど…」
「もう、平気です。話を聞いてくれてありがとう」
遙はそこで、結構密着していることに気付きあわてて離れる。
仮面の男は苦笑しているのか口元がかすかに笑っていた。
「急ごうか。次の町まであとすこしだ」
「はい」
遙はできるだけ顔を上げないようにして返事をした。
次の町、についたのはもうすっかり夜になってから。
この街・ノウトドールは、ミディールより栄えているらしく、立ち並ぶ家並も、町に入りたてこそミディールとそう変わらないものであったが、町の中心部に行くと、大きさやつくりが全く異なり、夜だというのに人も多かった。
「今日はここで休もうか」
彼が立ち止まったのは1軒の宿屋。
遙は内心あわてた。
お金がない。
所持金はもうほとんどないし、金目のものも持っていない。
もともと貧乏生活で毎日がサバイバルだった遙にとって、お金がないというのは当たり前でさして問題ではなかった。
お腹がすけばそこらへんの食べられる木の実や草を食べ、魚を釣り、聞き込み時の時たまもらえる親切なおばちゃんからの贈り物を食べていた。
寝るときはもっぱら野宿。樹の大枝の上で器用に眠り、うろで雨をしのぎ、ウルフは枝で追い払い、ごくまれに空き家を拝借する。
お金なんて必要ない!!
だが、仮面の男はすたすた入っていってしまう。
確かに彼は着ているものも上等だし、仮面なんぞ余計なものを身につけ、見た目もお金持ちな感じがする。
おまけに仕事はお医者さんか薬屋さんだ。
でもここまで連れてきてもらっているのに勝手にうろうろできないと思い、遙は後を追いかけた。
カラーン
宿のドアについたベルが鳴る。
急いで仮面の男のもとに向かうと、彼と宿の主人は何やら談笑していた。
「この間の枝も、ありがとうございました」
「いやいや。あなたにお礼を言われるなんて恐れ多いですな。ここら辺じゃあよく採れるものだから」
「でもあそこまで立派なものは珍しかったもので…」
「ああ。確かによく育った枝だったなぁ。…また何かお探しでしたら教えてくださいよ」
どうやら何か品物を集めてもらったらしい。ここによく来るみたいだ。
「はい。ありがとうございます。でも今回は普通に客としてきたので」
「部屋は空いてるよ」
「じゃぁ、二部屋」
「二部屋??」
仮面の男は急に遙のほうをさした。
「彼女の分」
「ええ??」
まさか。早く断らなくては。ハジをかいてしまう。
「わ、私は大丈夫です!」
「いいよ。泊まればいいじゃない。どっかあてでもあるのか?」
「う…ないんですけど。でも」
「野宿でもする気?ここ、かなり物騒だよ」
「だ〜いじょうぶですよ!ほら、イザとなったらさっき教わった魔法つかえば…」
「あんな広範囲の呪文、こんな町なかで使ったらとんでもないことになるだろ」
仮面の男は呆れたように首を振る。
遙がそんなに野宿にこだわる理由がわからないのだろう。こだわっているわけでもないが。
仕方なく、恥をしのんで言った…
「とまるおかねがありません・・・」
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一言:ここでセレブとビンボーさんの意見のすれ違い。
HP立ち上げて早3日ですが、メールフォームでご感想をいただきました!!
とってもうれしく思っています。
更新は不定期で滞りがちになることもあると思うんですけど、気長に待っててください。
あんもさん
メールありがとうございます!!隊長さんを気に入ってくれて驚いてます。なんてったってめっちゃひどいひとですから。
でもせっかく気に入ってくれたということですので、また出番があったら出したいな。
あんな生粋の悪役キャラ、そんな簡単には死にません。
嘘です。実は1章でさよならのつもりでした。
でもせっかくキャラ確立しちゃったようなので生かしときましょう。笑
しかし…当分彼の再登場はなさそうです。。。
またご意見お待ちしています^^
管理人咲貴