メイギカ 第1章 第13話 〜変なのは誰?〜

 

「とまるおかねがありません・・・」

 

涙を飲んでそう告白する。
少しは気付いてくれればいいのに。遙のような魔人がふつう、お金をもっているわけがないって。

だが、仮面の男は不思議そうに首をかしげて普通に言った。

 

「大丈夫。俺が払うんだから」

「え??」

「君がお金を持っていないことぐらい、容易に想像できる」

「う・・・」

「君に払わせると思った?」

「…はい」

 

遙がそう返事すると、仮面の男はさも心外だというように肩を大きくすくめる。

そんな二人の様子を眺めていた主人は、にやりと笑いながら会話に割り込んできた。

 

「お嬢さん、この人金持ってるから。だーいじょうぶ」

「いや、その…」

「あっ。払わせるのが心苦しいのか。いやぁ、なんて心のやさしい子なんだ」

「そんな…」

「大丈夫だよー。お嬢さんぐらいかわいい子なら、オジサンが安く泊まらせてあげるよ」

「ちょっと。そうやってすぐに女の子にちょっかい出すの、やめた方がいいですよ」

 

なれなれしい主人の言葉に、仮面の男は呆れたように止めに入る。
遙といえば、主人の言葉にしどろもどろに言葉を濁すしかなかった。

 

「そんな!人を軟派者のように言わないでくれ」

「実際そうでしょうが・・・」

「フン。こんなかわいい子をウチの宿に連れ込もうとしている奴が何を言うのか」

「ただ泊まるだけです!」

 

さすがに仮面の男も強く否定する。相変わらず仮面のせいで表情は読めない。
だが、この二人。主人は客だというのに仮面の男に対してずいぶん親しげだ。
よくこの宿を利用するのだろうか。

主人は強く否定した仮面の男をおもしろげに眺め、笑顔で遙に向きなおる。

 

「お金を払わせるのがいやなら、一部屋だけにしとこうか?…ダブルベットの部屋が一部屋空いていましてね」

「ちょっと!!余計です」

 

仮面の男はリュックからコインを出す。銀貨だ。

バチンとカウンターに数枚置く。それをずいっと主人の前に突き出した。

 

「つまらないことはいいですから、早く部屋のカギください。ふた部屋で」

「はいはい。・・・冗談の通じない奴はいやだねぇ」

 

言いながらも、主人はカウンターの下から鍵を二つ取り出しおいた。

 

「3階のつきあたりのふた部屋だ」

 

 

「ごゆっくりぃ〜」という妙になれなれしい宿の変な主人から逃れ、3階の部屋まであがっていく。
宿は小綺麗で、窓から月の光が差し込んでいた

結局お金を払ってもらってしまった。なんだか釈然としないものを感じながら仮面の男についていく。
一人分の宿代も軽く払えてしまうなんて。魔人なのに。
遙のイメージの中の魔人は自分を含めてみーんな貧乏。だから違和感。

本当に変な人。お金持ちの魔人なんて。

 

でもたぶんこのもやもやした感じは彼がお金持ちだからだけではない。

 

「あの・・・泊めさせてもらってありがとうございます」

「いいよ。こっちが勝手に払ったんだし・・・」

 

お金持ちなのはむしろ理解できる。彼の職業はおそらく医者か薬屋さんで、お金持ちの職業だ。

しかし貴公子然とした優雅さはそれよりも貴族を思わせる。彼は、遙がおとぎ話でしか知らない貴族のイメージぴったりだった。

仮面なんか付けているミステリアスなところも変だ。しかもやたら強いぽい。

だが、たぶん遙がもやっとしてしまうのは、助けてもらった上に道案内までしてもらい、おまけに宿までタダで手配してくれているということだろう。
今まで人のやさしさにあまり縁のなかった遙は、この不思議な男からの理由のわからない親切に戸惑っている。

彼は遙がメイギカをめざしているから助けたと言っていたが…。

借りた部屋に着くと、遙は隣部屋の鍵を受け取った。
鍵をカギ穴に差し込み、ドアを開ける。

 

「荷物を置いたら下の食堂に行ったらいい。食事が出るから」

「あ、はい…」

 

仮面の男はそう言って自分の部屋に引っ込んでいった。

お腹のすいていた遙はいわれたとおり荷物を置いてから食堂に向かった。
こういうところに行くのは、本当にめったにないことだったので、どうすればいいかわからない。
食堂までは何とかついたものの、遅い時間のせいか食べている客は奥の方に座っている若いカップルだけだった。
店員も奥で洗い物をガチャガチャやっている人が一人しかいない。

どうすればいいんだ。
普通にあの人に声をかければ出してくれるのだろうか。

ていうか、宿の仕組みがいまいちわからないけど、ここはお金はいらないのかな?

右往左往。とりあえず洗い物をしている人に声をかけてみようと勇気を出して近寄った。

 

「あのー」

「はい?」

 

普通のおばさんが振りかえる。

 

「ここってお金はいくらですか」

 

 

 

 

食べ終えた遙は部屋に戻った。

おばさんは遙の質問にやさしく答えてくれた。
「ここに泊まる人はいらないわよ」と。
でも、遙の話を聞いていたらしいカップルは笑っていた。遙は自分の常識のなさにいたたまれなくなり、急いで食事をとり、部屋に戻ることにしたのだった。

さっきは仮面の男を変な人だと思ったが、どうやら自分もかなり変らしい。薄々気づいてはいたが…

仮面の男は降りてこなかった。もう休んでいるのだろうか。

遙は聞きたいこともあったので、仮面の男の部屋をノックする。

 

コンコン

 

「…」

 

しばらく待ってみても返事がない。もう一度ノックしても同じだった。

 

いないのだろうか。聞きたいことがいっぱいあったのに。
メイギカのこと。仮面の男のこと…

あきらめて部屋に戻ろうとすると、階段を上ってくる足音が聞こえてきた。

上がってきたのは仮面の男。

 

「どうしたんですか??」

「いや…ちょっとね」

 

遙の問いには答えようとしない。そのまま部屋に戻ろうとした仮面の男だったが、遙の視線を感じ足を止める。

 

「そういえば、俺に何か用でも?」

「あ、はい…」

「入って」

 

仮面の男は部屋のドアを開けた。

仮面の男の部屋は遙の部屋と間どりは全く一緒だった。仮面の男は遙に椅子をすすめ、自分はベッドのふちにゆったりと腰かけ優雅に足を組んだ。

遙は聞きたいことを聞こうと口を開いた。

 

 

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