メイギカ 第1章 第14話 〜仮面の男の正体とは〜

 

遙は聞きたいことを聞こうと口を開いた。

 

聞きたいことなら山ほどあるが、とりあえず片っ端から思いついたことを質問していった。

 

もちろん一番聞きたかったことはメイギカについて。

メイギカは、彼の足ならあと10日ほどのところにあるらしい。
この国は魔人や精霊族だけでなく、非魔人も住む多民族国家で、移民も多いそうだ。移民の多く住む町もあるくらい。
遙はそれを聞いてほっとした。よそ者は受け入れられないというのは彼女の少ない人生観の中では常識だったのだ。

 

「精霊族って、どんな感じなの?」

「人に近い姿の人もいるし、そうでない者もいる。まぁ、いかにも精霊族っていう外見の人はあの国ぐらいでしか見られないかもね」

 

魔を持つ人以外の存在を精霊族と呼ぶのであれば、ウルフなどのモンスターも精霊族に入る、と彼は言った。

もちろんそういうことなのでメイギカ以外の国にも精霊族は住んでいるが、人目につかない姿をとっていることも多い。
メイギカは元魔を持つ者たちの多く住む国であったから、精霊族の国でもある。のでほかの地域に比べ堂々と姿を現しているというわけだ。

もちろん魔人、非魔人たちは特にそのことを不自然に感じたりもしない。

 

「俺の知り合いにも精霊族の血が混じったハーフが結構いる。背中に羽が生えてたり…狼男の知り合いもいるな」

「へぇぇ〜〜!」

 

遙は目を輝かせ、まだ見ぬ地を思う。魔法の国。本当にその表現がふさわしいあこがれの国を思い浮かべ、遙はにっこりと笑った。

仮面の男はその様子を見てふっと笑みを漏らした。

 

そして遙はずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「・・・それで、助けてもらってあれなんですけど、あなたは何者…?」

 

遙は勝手に薬屋さんと思っているが、腑に落ちない点もたくさんある。
年のころは遙と同じくらいか少し上くらいだろうとふんだが、なにせ仮面をつけているのでよくわからない。
そう、仮面である。

なぜ仮面をつけているのか。気になるところだった。
でもなんだか、なんで仮面なんか付けてんだよとは言えずにいた。ので遠まわしに突っついてみる。

 

「そこら辺にいる薬売りの男だよ」

 

仮面の男は見えている口元で薄く笑った。

 

「…お名前は??」

「ジンだ。こう書く」

 

ジンと名乗る仮面の男は、自分の座っているふかふかした布団に指で『仁』と書いた。

 

「と言っても、本名はまた別にあるけどね」

「え!? どういう…」

「そういえば君の名前をまだ聞いていなかったね。ハルカと呼ばれていたようだけど」

 

ジンは遙の問いには答えずにきいてくる。仕方なく、返事を返した。

 

「遙です。字はこういう字」

「苗字は?」

「苗字・・・?」

 

うーんとうなり考え込む遙。

まず名前を呼ばれることなどほとんどなかった生活だ。まして苗字なんて覚えていないほど。
よばれることがあったのなら、たいてい母親の名前だった、はずだ。

と、言うことは。私の苗字は母さんの名前?

 

遙は、母親の名前を自分の名前にくっつけて脳内言ってみた。

 

「…苗字は、忘れました」

「フッ」

 

遙の様子の一部始終を見ていたらしいジンが鼻で笑った。

 

うわ―こいつ。何となくむっとした遙は怒ったように話を戻した。

 

「いいじゃないですか忘れたって。それより仁さん。本名はまた別にあるってどーいうことですか?」

「そんな怒ることないだろ。それは、そのまんまの意味だ」

「じゃあなんでわざわざ偽名名乗るんですか。しかも自分で偽名てバラしてるし!」

「偽名じゃないよ。仁だって本名」

「?じゃあもう一つの本名は?」

「うーん。忘れた」

 

そう言って、口元だけでまた笑う。
遙はなんだかいらいらしてきた。

仮面の男がジンという薬屋であることはわかった。
だが、本名は別にもあるだのわけのわからないことを言ってくる。謎は深まるばかり。

そして、本人もわざとなのか、謎の人物であると示してくる。仮面を取る気配もないし。

 

「なんで仮面なんかかぶってるんですか?」

「それは、まあ、あれだよ。」

「あれって言われたってわかりませんよ…」

「察しろ」

「ははぁ。あれですね」

「そうだ、よくわかったな」

「わかりませんよ」

「本当に?」

 

まるでバカ扱いされているみたい。ジンの声にはからかいの響きしかなかった。

でもなんだか掛け合い見たいで楽しい。

ただばかにされるのは嫌なので、少し考えてから言ってみる。

 

「じゃ、顔をかくさなきゃいけない理由があるってことですよね?・・・まさか」

「なんか思いついたの?」

「まさか。あなた…黒い取引を」

「……」

 

黒い取引。その言葉は、昔の読み古したミステリー小説で覚えた。

エチゴヤンという悪い商人が、領主さまに黒い取引を持ちかけるのだ。その悪事は主人公によって暴かれる話だった。

もしかしたらジンは、エチゴヤンのような悪い薬屋で、お偉い様に毒薬を売りつけたり、法外な値段を請求したりしてるのかもしれない。
仮面は、エチゴヤンの正体を悟らせないためかぶっているに違いない…!

と、考えてみたものの、そうなると私は悪人に捕まったことになる。

ジンが悪人だったなら、このままだと私はどっかにうりとばされたりするのだろうか。

 

まさかね。

 

そう思い、一人納得する遙を黙って眺めていたジンは、黒い取引という言葉で何を判断したのかやれやれというように首を振った。
ついでに少し伸びをしてからベットに倒れこむ。

遙はその音に少し驚き小さくびくりとした。

怒らせてしまったのだろうか。完全にエチゴヤン疑惑が否定できないせいで余計怖くなってしまう。

あわてて話題を変えようと頭をフル回転させる。

 

「そういえば、ここのご主人とは知り合いなんですか?」

「ああ。そうだよ。薬の材料を安く譲ってもらっている」

 

ジンは寝そべったままの姿勢であくびまじりに答えた。
遙の位置からはジンのあくびした姿がよく見える。彼は口元をきちんと押さえていた。

遙はその様子をぼんやり眺め、自分のエチゴヤンのイメージとどうも合わないと勝手に結論付けた。

 

「そうなんですか・・・」

「そうそう。あの人も魔人だよ。魔法は全く扱えないけど」

「ええっ!」

 

遙は驚いて思わず寝そべったジンを覗き込む。

仮面が近くなっただけだが、なんだか気恥しくなりゆっくりもとの位置に状態を戻した。
ジンの表情は相変わらず読めないが、先ほど少し見えた左目の紫がちらりときらめいた気がした。

 

「そ、そうだったんですか」

 

魔人同士なら変な恐れもなく付き合っていけるのだろう。
非魔人相手ならああはいかない。それは遙がよく知っていることだった。

 

「ここの町には結構魔人も住んでいる。まぁ、おおっぴらにはしていないし魔法を扱う人もほとんどいないけど」

「魔法を扱えないってどういうこと?」

「魔法を発動できる程の魔力を持ってない」

「??」

 

ジンの言うには、魔力というのは精霊に働きかける力であり、これが強いほどたくさんの精霊の力を得られるということなのだそうだ。

言い換えれば、精霊に好かれる体質だということ。

ただ、魔力のないというのは精霊に嫌われているというわけではなく、精霊から力を引き出す能力がないだけということらしい。

そんな説明をわかったようなわからないような思いで、でも熱心に聞いていたが、だんだん疲れがでたのか眠くなってくるのを感じた。

 

「…まあ、彼らの持ってる魔力は、視覚とか嗅覚とかを研ぎ澄まさせる程度だってことだ。…おい?」

 

返事がないのをいぶかしく思い、ジンは体を起してみる。

 

見てみると、ちょうど椅子の背もたれに遙の頭がこつんと載ったところだった。

 

 

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一言:次ぐらいには1章終わるといいけど・・・

久しぶりの更新でした。てすとだぁぁぁ。こんなことやってていいのか。笑