メイギカ 第1章 第15話 〜約束、一時の別れ〜

 

 

わたがしにくるまれるゆめをみた。

 

 

目を覚ました時、一瞬どこにいるかわからなかった。

どこかで寝ている。ぼんやりとした頭でわかったのはそれだけだった。

 

それにしてもなんて寝こごちがいいんだろう…

 

そう思いながらもなんとか瞼をこじ開け、目に焦点を合わせる。

白いものが目に入ってくる。なんかふかふかした。これか。わたがし…

 

ゆっくりと反対側を向いてみると、扉があった。

ここは、部屋?

 

そこまで考えてから、遙は自分が今どこにいるか思いだした。

ここは宿だ。だからこんな寝こごちがいいんだ!

 

でも、と上体を起こし徐々に意識を覚醒させる。

確か仮面の人の所にいなかったっけ。

 

……

 

覚醒度が上がるたびに昨日の記憶が少しずつ思い出されてくる。

そうだ。あの人はジンという名前らしかった。

で、宿の人も魔人だって聞いて驚いた。

で、話を聞いてるうちに眠くなって―――

 

がばっ

 

遙は飛び起きると、寝癖もそのままに部屋を飛び出した。

そのまま隣の部屋に行く。

 

ドアをノックするが返事はない。確か昨日もこうだった。

一応ノブも回してみるが開かなかった。

 

しかたなく、宿の食堂に降りてみる。

日はすっかり昇りきり、さわやかな風が窓から吹き込んでくる。

 

食堂ではジンが主人と話しているところだった。

ジンは遙が食堂に入ってくると、こちらへやってきた。相変わらず仮面をつけている。

 

「よう。よく寝れた?…みたいだね」

「おっおはようございます」

 

ジンは明らかに寝癖を見て笑いをこらえている。仮面をつけてようが明らかだ。

遙も恥ずかしくなって声が上ずった。あわてて手で寝癖を抑える。

 

「支度が出来たら呼んでくれ」

 

そう言ってジンはすぐに上がっていってしまった。

仕方なく先にご飯を食べる。おいしい。朝ごはんもだけど、久しぶりにまともな生活をした気がする。

 

部屋に戻り、顔を洗い、髪を何とか整え部屋を出た。荷物はないので支度なんてこれぐらいだ。

ドアをノックする。今度はすぐにジンが出てきた。

 

「行くか」

「はい。…あの、昨日は済みません。寝ちゃって…」

「疲れてたのは同じさ」

 

ジンはそう言ってすたすた歩いて行ってしまった。

遙はやっぱり布団に寝かせてくれたのはジンかと思いまた顔を赤くした。

さっさと降りて行ってしまうジンを急いで追いかける。なんか無愛想。やっぱ怒ってるのかな・・・?

 

ジンはすでに支払いを済ませていたらしく、宿の主人に軽く手を振ってそのまま出て行った。

遙は迷ったが、主人に「ありがとうございました!」と小さく頭を下げ小走りで後を追う。

 

ジンは宿の前の広場で待ってくれていた。

遙が駆け寄ると、またずんずん進む。

やっぱり怒っているのかな。なんだか心がしくりと痛む。

きっとこの人に見捨てられてしまったら私はまたメイギカから遠ざかってしまうからなんだろう。

少し落ち込む。

 

「もしかして、怒ってるんですか…?」

 

ジンの歩みが止まる。

遙は下を向いたまま、一番可能性のある原因を言ってみる。

 

「寝ちゃったから…??」

「ちがう。怒っているわけじゃない。ただ…」

 

ジンは額に手をやり、少し考えてから言った。

 

「…なんでもない。朝は得意じゃないだけだ。悪かったよ」

「そう、なんですか」

 

本当じゃない。そう思ったが、怒っているわけではないのだろう。

私のこと以外に気になることがあるのかもしれないし。

遙は前向きに無理やりそう納得させた。

 

二人はそのまま黙って歩を進めていく。

ノウトドールの町並が流れていった。また立ち並ぶ家々がまばらになっていく。

町の出口へと近づいているようだ。

 

 

ジンが立ち止まる。

そして彼はある方向を指さし言った。

 

「悪いけど俺は用事ができた。ここから先は一緒には行けない」

「え・・・」

「悪い。一緒に行ってやりたいのはやまやまなんだが…。でも大丈夫だ。ここをずっと行けば着く。

あまり凶暴なモンスターもいないし、山賊が出るという話もあまり聞かない」

 

ジンは安心させるように言った。遙は黙って頷く。

また一人になる。そう思って不安が湧き起こっていく。

遙は、そんな不安に気づかれないよう、明るく言った。 

 

「ここまで、ありがとうございました。いろいろ助けてもらってしまって。お礼もできなくて、すみません」

「いいよ。勝手に助けたのは俺だし」

「そんな。私ひとりだったら今頃死んでました。本当に感謝してもし足りないくらいです」

「こっちもそれに関しては助かったよ。君がいなかったら俺も危なかったからね」

「でもそれは私のせいで・・・」

「もうその話はやめよう。お互い様ってことだ」

「はい」

 

お互い様。こんな言葉、どれだけ使う機会がなかったのだろう。

こういう些細なことも、一人じゃわかりっこない幸せだ。遙は思った。

そう思うと、言い得れない寂しさを感じる。

 

この人にはもう会えないのだろうか。

 

「あの…もう、会えないんでしょうか…」

 

遙の声は、自分でも驚くほどさびしそうに聞こえた。

ジンもはっとしたように遙を見る。だがすぐに口元は笑みの形に変わった。

 

「君が道に迷って野たれ死にしなければ会えるはずだね。俺はメイギカ国民だし」

「なっ。そんな簡単に死にません!メイギカにつくまでは絶対あきらめませんから」

 

そう言ってから、自分は危なくあきらめるところだったことを思い出した。

ジンはそれに気づいているのか、楽しそうに笑う。

 

「そうそう。その意気だ。…メイギカで会おう」

「はい。絶対ですよ」

 

「約束だ」

 

約束。そう言って二人は笑いあった。

きっとすぐかなう約束。

”メイギカで会おう”

 

「そんな君に餞別」

 

ジンはそう言って、リュックからいつぞやの時のように小瓶を取り出し遙に投げてよこした。

遙はあわてて受け止める。

中身は緑色の粉だった。

 

「なんですか?これ」

「モンスターの嫌がる粉。寝るときにまいとけばモンスターが寄ってこない。夜はモンスターが活発になるからね」

「あ、ありがとうございます」

 

凶暴なモンスターはいないとは言っていたが、なにせジンの基準だ。遙にとっては未知なる道である。素直にありがたかった。

遙はその瓶を服のポケットに突っ込むと、ジンに向きなおった。

 

「それじゃあ仁さん、また」

「ああ。メイギカで」

 

 

そして遙はジンの指した方向へ、ジンは反対方向へ、それぞれ歩き出した。

 

 

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一言:とりあえず1章おしまーい。なんか最後の方意味不明になってしもた。

つぎからメイギカへ入国です。