メイギカ 第1章 第4話 〜仮面の男〜

 

「今日はホント、いい天気だなぁ…」

 

森の中の小さな村に、ぼろぼろの一軒家。

そこの窓からひょこっと顔を覗かせ、娘はつぶやいた。

 

遙である。

端の村を出ていた彼女は、こうして空き家にお邪魔したりながら、旅を続けていた。

メイギカへむけて。

 

 

あの後、メイの亡骸を拾い上げ、母親の墓のそばへ埋めた。

そして、家に残してきた母親の指輪とメイの首輪を形見にして、旅立った。

野宿したり、空き家を借りたり。

山賊に襲われかけたり、役人に訝しがられたり、何度か危ない目にもあったが、何とか旅を続けている。

ただメイギカがどこにあるのなんでまったくわからず、彼女の勘で進んでいるため、本当は近づいているのか遠ざかっているのか…

 

ただところどころで、「魔人狩りで逃げた女」という言葉がついて回る。

そのたびにビクビクしなければならなかった。

 

でもメイギカに着けば、そんな思いもうしなくてすむ。

そう思って、ひたすらに歩を進めている。

 

 

ただ、今日はものすごくいい天気。

 

「たまにはのんびりしようかなー」

 

メイギカに近づいてるか、いまいちだけど、この辺はあまり役人はいないし。

彼女はもう少し村にとどまることに決めた。村によるのも結構久しぶりだし。

 

 

早速、お借りしている家をでて、通ってくる途中に見つけた湖へ向かう。

水浴びでさっぱりして、服もきれいに洗って。

遙は魔力のコントロールができないので、洗濯をするときにはたくさんの水が必要になるのだ。

ただ乾かすときのやり方は母親が教えてくれたので、早く乾いた。

ついでに形見の指輪と首輪も洗ってみる。

思いがけずキレイに輝いて、なんか嬉しいような。結構汚れてたな。複雑な心境。

母の指輪をはめてみて少しにんまりする。

小さな宝石のようなものがちりばめられたリング。青、赤、緑、黄色、水色、茶、白、黒、紫、灰。

ひとつひとつは小さい石だが、合わさって調和した感じが好きだった。

この指輪は父からプロポーズの時にもらったものだと母は照れながら言っていた。

失くすと困るので、とりあえず紐でぐるぐる巻いて首にかける。

メイの首輪も足にはめておく。変なファッションだけど、気にしない。

 

 

湖のそばに生えていた木のみをかじり、うたた寝。

久しぶりののんびりした時間。

 

結局そのまま寝てしまった。

 

 

「やばーっ寝すぎちゃった」

 

急いで村に戻り、町や村にいるときの日課、情報収集に出かける。

ここら辺では彼女のような旅人は多いらしく、若い女と言う点を除いてはあまり目立たずにすんだ。

 

村を周り、お店をめぐってみる。

お店のおばちゃんというのは結構しゃべりたがりで、勝手にいろいろ教えてくれる。

それとなく世間話をしてみるが、なかなかほしい情報にはありつけない。

一番聞きたいのは、「メイギカってどこ?」

後は、「魔人狩りで逃げた女」について。

さすがに単刀直入に聞いたら魔人とばれそうだったので言わずに聞き出そうとする。

今日はどこのおばちゃんもたいしたことを教えてくれなかった。

 

「お嬢ちゃん、若いのに旅なんて偉いねぇ。これ、サービスしたげる」

「わぁ〜ホント?ありがとーv…ねえ、おばちゃん。ここの村ってどこなの?」

「ここかい?ミディールの村だよ。グラスウォール国のね。あんたイーレックから来たんだろ?」

「え?何でわかったの?」

「だってこの村はイーレックに近いし」

「そ、そーなんだ…」

 

まだイーレックの近くだと聞き、落胆を隠せない。

そもそも地名を聞いてもわかるわけがない。イーレックがどれほどの大きさなのかもしらないし。

でもいつかここはメイギカだよって言ってくれるおばちゃんに会えると信じて。

 

いつしか日もとっぷり暮れて。夕焼けが赤い。

今日もたいした成果は得られなかったな…ととぼとぼ仮宿に帰ろうとする。

 

村唯一の大通りに出ると、村人達のひそひそ声がきこえる。

 

「またあいつが来たわ…」

「相変わらず奇妙な格好だな…」

「謎すぎるよ、あの人」

「絶対アイツ魔人だろ?早く誰か捕まえてほしいよ…」

 

 

魔人?

魔人という言葉に反応して思わず人々が見る方向へ歩き出す。

みんなの視線の先には、確かに不気味な容貌の男がいた。

 

いや、不気味な容貌というのは正しくはない。

その男は背は高くすらりとして、どこか貴公子然としている。

ただ異様なのが顔。

顔のほとんどは、仮面で覆われているのだ。

見えているのは口元と左頬の一部のみ。

おまけに服装も黒で統一している。

髪は長めの金髪。

彼は手に怪しい袋を抱え大通りを練り歩き、時折品物を購入しているようだ。

よく見るとリュックまでしょって、買ったものはその中に入れている。

リュックは結構パンパンに膨れている。

 

確かに謎だ。

謎すぎる。

 

遙は男をずっと眺めていたため、目が合ってしまった。(ただ仮面をかぶっているため定かではない)

あわててみないふり。

 

男のほうは彼女をしばし眺めていたが、すぐに歩き出した。

遙も魔人かもということで話しかけたかったが、怖くてできず、帰路に着こうときびすを返したが、ちょうど彼の進行方向だったので気まずい思いをしてしまった。

 

そのまま遙と男は微妙な距離感を持って進んでいった。

遙の勝手に借りている仮宿は、村の入り口にある村唯一の宿屋の近くにあるためだろう。

遙もできれば宿を取りたいが、お金がないので叶わない。

 

そして、もうすぐ村の入り口が見えてこようというあたりに差し掛かる。

 

そのとき、叫び声が聞こえた。

 

「あなた!しっかりしてっ!!」

 

女性の声。

 

「おい!早く医者を呼べ!」

 

男の声もする。

どうやら急病人かけが人がいるらしい。

さらに近づくと、数人の男たちが一人の男性を抱えて運んでくる。

そばには女性が泣きながらついている。

 

よく見ると男性は血まみれで、周りの男たちにも怪我をしているものがいる。

 

「早く医者を!」

「しっかりしろ!」

 

男たちがそばまで来た。酷い有様だ。

肉はえぐれ骨は見えている。

遙は目をそむけた。見ていられない。

その時遙の視界を誰かが横切った。

 

先ほどの仮面の男である。

 

「ちょっと診せて」

「?!おまえ…」

 

ただ多少仮面の男に怯えてか、血まみれの男性を下ろし、すがるように男を見た。

周りには人だかりができてきた。

 

「あの人たち、ウルフに襲われたらしいの」

「そうなんですか…」

 

近くに来たおばちゃんが教えてくれた。

きっと泣いている女性は奥さんなのだろう。

 

仮面の男は傷の様子を観察し、すっと撫でる。

すると驚いたことに、血が止まっていった。

周りも驚く。

 

「これは酷い…」

 

男はつぶやき、ギャラリーも気にせず、傷に手をかざす。

そしてなにやら呟く。

 

仮面の男の手は淡く光り、徐々に傷をふさいでゆく。

 

魔人だ。

誰ともなくいった。

 

だが誰も止めない。

また仮面の男は何か呟く。

遙にはそれが呪文だとわかった。

 

 

いつしか夜になり、星が瞬き始めた頃、やっと男は顔を上げた。

 

「とりあえず、傷はふさいだから。いつ目が覚めるかは体力次第だね」

 

そして、手に持っていた(さっきは床においていた)謎の袋から小瓶を取り出す。

彼は泣いていた女性に向き直り、小瓶を差し出す

 

「傷口が完全にふさがるまであまり動かすな。毎日この薬を塗るといい。…他の人も、怪我してるなら塗っておくといい」

「え…は、はい」

 

女性はぽかんとしながらもビンを受け取った。

 

「さて…早いことこの人を病院かなんかに運んだほうがいい」

 

といって立ち上がり、あたりを見渡した。

 

村人達は、安堵と恐ろしさの入り混じった微妙な表情を浮かべている。

仮面の男はその様子に肩をすくめた。

そしてそのまま宿へ消えていった。

 

のこされた人々は我に返り、あわててけが人を運んだり、お店に帰ったり、噂話をした。

 

遙とはいうと、ぽっかーんと見送っていた。

 

衝撃だった。

あの人はあんなに堂々と魔力を使っている。

メイギカの人なのかな?

話を聞きたい。

 

遙は急いで、仮面の男の入っていった宿へ向かった。

 

 

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一言:ここでやっと新キャラ登場。

彼、重要です。でも怪しすぎる!!