メイギカ 第1章 第6話 〜絶体絶命?〜

 

「君まさか…魔人狩りで逃げた女…?!」

「…」

 

何も言えず、遙はうつむいた。

どうして知っているのかは容易に想像がつく。イーレックかどこかで指名手配の似顔絵を見たのだろう。

髪をばっさりと切って変装しているが、よく見ればやはり見分けられるらしい。

 

そこへドタドタと階段を上がってくる複数の足音。

 

「いたぞ!あいつが魔人の男だな!」

「女もいるぞ?」

 

そこへ、聞き覚えのある声が。…隊長だ。

 

「あいつ!!魔人狩りで逃げた女!こんなところに…」

「まさか仲間がいたとは」

 

隊長は勝ち誇った笑みを浮かべ、一歩踏み出す。

 

「観念しろ。逃げ場はない…久しぶりにあったな。遙…そんなちゃちな変装、見破られないとでも思ったか?」

 

隊長は本当に楽しそうに笑った。遙はますます身をすくませる。やっぱりばれてしまった。

 

「お前に逃げられてから、俺はなァ。散々だったんだよ…今度は処刑なんて面倒なことせずに、この場でしっかり殺してやるからな!」

 

大げさに腕を振り回し遙に指を突き付けた隊長は、部下に指示する。

 

「機械をもってこい。…ふふふ。今度の奴は威力が違う。前のようにはならないぜ。何せ最新だからなァ。ハッハッハ!」

「前のようにならない?どういうことだ」

 

仮面の男が言う。隊長は先ほどよりも大仰に両手を振り回しながら説明した。

 

「まぁ恥さらしな話だが。あの化け物は「機械」が効きもしなかったのさ。…だがこれはものすごい威力だそうだぜ。良かったな。お前らが被験者第1号、2号だ」

「ほう。…わざわざそんなたいそうなもの使っていただけるんですか。ありがたいですね」

 

仮面の男は不敵な態度を崩さない。

遙は仮面の男の後ろでいまだに絶望感に怯えていた。

この男はいったいなんでこんなに余裕があるのだ。

ここまで来るまでの旅で2回ほど、対魔人用ではないが機械を使った場面を見かけた。

凶暴な複数のモンスター相手に機械を使っていたが、使用後のモンスター達は無残に肉の塊と化し、あたりは荒地のような有様になっていた。

彼女は自分に向けられたものがどうして何も起こらなかったのかまったくわからなかったが、とにかく安堵し、同時に恐ろしくなった。

今度あれを向けられたとき、前のように何も起こらずにいられるとは到底思えなかった。

しかも今度は最新型で、ものすごい威力だという。

 

絶体絶命。

 

まったく危機感を感じていないらしい仮面の男は隊長に問いかける。

 

「それにしても感心できないですね。こんな屋内で、しかも村の中でそんなものを使う気なんですか?」

「お前らがおとなしくしてくれりゃつかわねぇよ」

「おとなしくしてたら殺されるんでしょう?」

「まぁ、そういうことだな」

「…」

 

仮面の男は嘆息し、後ろにいる遙を振り返った。

 

「そういうことだそうだ。君はどうする?このまま殺されるか、ここの宿ごと心中か、抵抗するか」

「…」

「君がどうするか知らないが、俺は死ぬわけにはいかないし、死ぬつもりもないから。君がどうしようが抵抗させてもらうよ」

 

遙は顔を上げる。死ぬわけには、いかない…。

でも…

抵抗するって言ったってどうするつもりなのだ。こんな囲まれている状況で。

魔法を扱えるらしい彼なら、何とかできるのかもしれないが…

 

「いつまでしゃべっている?そろそろはっきりしろ。さっさと殺されるか、機械にやられるか。ふたつに一つだ」

「どっちもできればごめんこうむりたいですね」

「それは無理だな。…特に女!お前は絶対殺す!」

 

相変わらずのんびりした仮面の男とは対照的に、隊長は急に激昂した。

遙を充血しきった目で睨みつける。

 

「何でそんな彼女にこだわる?なにかしたのか?」

「…何もしてない!」

 

仮面男の問いに首を振る。

何かした覚えはまったくない。

小さく呟いた遙の声に、隊長は鼻息も荒く言った。

 

「フン!お前を確実に処刑していればな、今頃俺は昇格し、帝都で働いているはずだったんだ。それをお前が…」

 

当時の屈辱を思い出したか、隊長はぎりぎりと歯軋りをした。

 

「お前に逃げられたせいで、俺は役立たずの烙印を押され、こんな僻地に派遣される身分になっちまったんだよ!」

「…それって逆恨みじゃないですか」

 

ぼそりといった仮面の男の声には気付かなかったらしく、畳み掛けるように遙をにらみながら言いつのる。

 

「お前を絶対に殺して、俺は帝都に行くんだ…!!絶対に殺す!」

 

噛み付くような隊長の怒号に、遙もくっと顔を上げ睨み返す。

以前の怒りがふつふつとよみがえる。

 

もともと私は罪人なんかじゃない。

お前なんか人殺しじゃないか。

私の目の前でメイを殺し、私を殺そうとし、たくさんの魔人を殺し、それでお前は平然と生きている。

魔人を殺すほど偉くなる?馬鹿を言うな。

そうだ。私は誓った。

こんなやつらには絶対に殺されたりしないと。

 

絶対に生き延びてやる。

 

遙は隊長をすっとにらみながら、足を前に踏み出した。

どうするという策は何もなかったが、体は勝手に向かっていった。

ずっと自分の影で怯えていた娘の突然の行動に仮面の男は制止する間もなかった。

 

「お、おい!?」

「…」

 

遙の瞳は怒りに染まっている。仮面の男の声に耳も貸さず、ずんずんと歩いていった。

 

「ふっ。やっと死ぬ覚悟ができたか。まぁ顔は綺麗だからなるべく傷がないようにやってやるよ」

 

そういって剣の柄に手をかける。

それでも彼女は止まらない。

距離はどんどん縮まっていく。

 

「死ね」

 

剣が抜かれ、彼女めがけて振り下ろされようとしたその瞬間。

 

すっと仮面の男が動いた。

 

キィン!

鋭い金属の音が響き、仮面の男の短剣が隊長の剣を受け止めていた。

遙は仮面の男に突き飛ばされ、小さくしりもちをつく。

 

「目の前で人を殺されちゃたまらない」

「どけ。お前は後で始末する」

「そういわれてどけませんから」

「とんだフェミニストだな。仮面野郎め!!邪魔するなら先に殺してやる!お前達もさっさとしろ!」

 

剣を交えながら部下に指示を出す隊長。

部下はいそいそと機械の準備に入った。

 

そんなやり取りの間も、遙はよろよろと起き上がり、隊長に向かい歩き出した。

 

「おい、止まれ!」

 

あわてた仮面の男に捕まり引き戻される。

隊長と微妙な距離で向かい合う。

 

「はん。ご立腹ってか?さっさと処刑されていれば良かったものを」

「…何故魔人を殺すの?」

「魔人だからに決まってるだろ?非魔人に取っちゃ魔人は全員敵。敵を殺すのにためらいなどない!」

「どうして!?わたしたちは何も悪いことなどしてない。人殺しは貴方達だ!!」

「人間の癖に人外の力を持つ魔人など、もはや人ではないだろ!人でないものを殺しても人殺しにはならないぜ」

 

隊長は得意げに言ってにやりと笑う。

その笑みに、遙と仮面の男の顔にさっと朱が差す。

遙の周囲に怒りのオーラが立ち上り、今は短い髪があの時と同じようにふわりと持ち上がる。

 

「…許さない!

 

遙の声と同時に、廊下に通じる窓がパリンと割れる。

廊下に割れた窓から突風が吹き込んだ。ガラスの破片が飛んでくる。

辺りは目も開けていられないくらいになる。

 

「くっ…早く、機械を用意するんだ!」

 

隊長は部下に指示するが、重い機械を2階に運ぶのに大分手間取っており、かつこの突風に部下達は恐慌をきたしていた。

 

「クソ!!役立たずめ!…魔人の女!殺す!」

 

隊長は遙に切りかかった。

 

「おっと。俺のこと忘れていません?」

 

剣を受け止めたのはまたしても仮面の男の短剣。

遙は前のときのように瞳を怒りにあふれさせながら、破片が当たるのもかかわらず立っている。

破片にも風にも堪えた様子のない仮面の男はそんな彼女を一瞥し、ひときわ強く剣を振るった。

剣から衝撃波を出したのだ。隊長は後ろに吹っ飛ぶ。

隊長と距離をとった仮面の男は、遙を無理やり抱えて割れたガラスの窓から外へ飛び出した。

 

「きゃっ!!なにす…」

「おとなしくしてろ!」

 

衝撃から立ち直った隊長は、顔を真っ赤にして怒り狂った。

 

「化け物め!絶対に逃がさん!!」

 

 

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一言:もうダメだ…遅い。

しかもなんか、どんどんずれてく。

ムズイ。