メイギカ 第1章 第8話 〜彼女の決断〜

 

遙は仮面の男に抱えられたまま、必死で彼にしがみついていた。

 

(この人足が速い!これも魔法なのかな?)

 

と思ってはいたものの聞くと舌を噛みそうなので口も開けなかった。

この人なら絶対にメイギカのことを知っている。そう思って胸が熱くなる。

 

「待ちやがれっつってんだろ!」

「隊長!!」

 

隊長の怒鳴り声に、不安になった遙は思わず自分を抱えている仮面の男の顔をまじまじと見つめてしまった。

顔の半分以上は仮面に隠れて見えないものの、見えている肌は白磁の滑らかさ。口元も上品に整っていた。

遙は自分が密着していることに気づき、あわてた。

隊長のほうに視線を移す。隊長は馬上で弓を構えていた。

 

「仮面野郎め!これでもっ!…くらえっ」

バシュッ!!

 

あっ

 

「うっ!」

 

遙にも一瞬の衝撃が感じられた。

命中ではなかったものの、彼の脇腹からは血がにじんできている。

構わずに走り続ける仮面の男。大丈夫なのだろうか。

不安になる遙に追い打ちをかけるように、隊長の悠々とした声がした。

 

「当たりさえすればいい」

 

隊長たちは追うのをやめていた。

さっきのセリフと何か関係するのだろうか。

村を出て森に入り、少し走った後、仮面の男は立ち止った。

 

「あの、大丈夫ですか?…おります。ありがとうございます」

 

遠くの様子をうかがっていた仮面の男はおとなしく彼女を離した。

 

「あの…」

「少しは引き離した。でも、ここまで追ってくる可能性もある」


仮面の男は厳しい声音でいった。

 

「じゃあ、逃げないと。でも、けがを…」

「彼らを…あまりこちら側に近づかせたくない」

「こちら側??」

「ああ。俺の故郷がある側だ」

「その故郷って…」

「メイギカだ」

 

メイギカが近いんだ!長いこと夢見てきた、魔法の王国が。

ぱあと顔を輝かせる遙をみて、仮面の男はほほ笑んだ。

 

「君は、メイギカへ向かっていたんだろう?」

「はっ。はい!…やっぱわかりますか??」

「まあね。実際国にはそういう人・・・魔人狩りに追われている人なんかもよく来る。それに君、魔力が結構あるようだから・・・」

「私の魔力が??」

「ああ。さっきのを見てるとね・・・くっ」

 

仮面の男は言葉を切り、傷口を観察した。

傷からは大量ではないものの、浅い傷とは思えないほどの血液が流れ出している。

 

「手当てをしないと・・・私のせいで…。ごめんなさい」

「君のせいじゃない。しかし、毒が塗ってあったようだ…」

「どく!?平気なんですか!?」

 

わたわたとあわてふためく遙。

仮面の男はあわてず、リュックを下ろし服を脱ぎだした。

 

「女性の前だけど、失礼するよ」

 

遙は少し赤くなった。引き締まった細身の上半身があらわになる。遙はあわてて目をそらした。遙はそもそも男性自体慣れていない。

仮面の男はそれでも仮面はとらず、その状態のまま、念入りに傷口をチェックした。

 

「あの、大丈夫??」

「ああ。傷の具合なら心配いらない。毒に関しても、そんな強い毒じゃない。解毒剤も持ってはいるが・・・」

 

言いながら、あたりの様子を少しうかがう。リュックを開け、中身を少しあさり、小瓶を取り出した。

その口をあけ、薬のような粒を取り出し、口に入れる。持っていたらしい水筒で流し込み、息をつく。

彼が傷口に手をかざすと、さっきの患者と同じように傷口がふさがれていった。

そしてリュックにあった布切れを器用にまいていく。

 

「少し休まないと・・・」

「あっ、ごめんなさい。私のことは気にしないで休んで・・・」

「そうさせてもらう。でも・・・」

 

仮面の男は手ごろな木の根元に座り込み、遙をじっと見た。

遙も思わず見つめ返す。彼の瞳は、仮面に隠れてみることはできなかったが。

 

「彼ら、おそらくすぐにやってくるだろう。あの毒は、魔力を抑える効果のある毒だ。幸い毒の純度は低いようだし傷も浅かったから大したことはないが、俺は少しの間まともに魔力が扱えなくなる。だから・・・」

「ごめんなさい。私のせいで…。助けてくれたのに、けがまでさせてしまって」

 

遙は仮面の男の言葉を遮った。

これ以上迷惑はかけられない。遙はそう考えていた。

遙はまっすぐに仮面の男を見つめ言った。

 

「私、あいつのところに行きます。おとりになって、あいつらを引き付けます。だからそのあいだに逃げてください」

「何を・・・」

 

つかまったら、きっと殺されるだろう。

でも、この人まで巻き添えになってしまったら、やりきれない。

ただ私と一緒にいただけで、こんなケガまで負って。

彼一人ならずっと簡単に逃げられたはずなのに。

 

メイギカにはいけなくなってしまうけど…。

でも、メイギカという国はあって、そこでは魔法が当たり前のように存在すること。

魔力があるからと言って迫害されるような社会じゃなく、一人の人間として生きていくことのできる国。

魔力を持っていても幸せにくらせる国があったんだと、この人が証明してくれた。

それが、素直にうれしかった。

だから。

 

「助けてくれて、ありがとう。私のことなら心配いりませんから。」

 

そういって、仮面の男に背を向けた。

 

 

第9話へ

1章目次へ

ランキング(NEWVEL投票ランキング)
気に入っていただけた方、クリックお願いします♪
(ひと月ごとリセット)

 

一言:メイギカにつけば1章終われるんだけどなぁ・・・;