メイギカ 第1章 第9話 〜感情の流出〜

 

「助けてくれて、ありがとう。私のことなら心配いりませんから。」

 

そういって、仮面の男に背を向けた。

 

「待って」

 

仮面の男が歩きだそうとする彼女を引き留める。

遙が振り返ると、彼はしっかりとした足取りで彼女に近づいた。

 

「無茶だ。殺されたいのか?」

「死にたくはないですけど…。仕方ありません」

「仕方なくないだろう。そんな事をする必要なんてない」

「・・・でもあなたに迷惑はかけられません」

「そういう問題じゃない。聞いてくれ」

「だって、あなた一人だったらきっとこんなことにならなかったのに!」

「君はメイギカに行きたいのだろう?だから助けたんだ。それなのに…」

 

彼は言葉を切り、鋭く叫ぶ。

 

「来るぞ」

「えっ!!」

 

言い合いの押し問答をしているうちに、逃げるどころではなくなってしまったようだ。

遙にもがさがさと足音が聞こえる。かなり人数を集めたらしい。足音はかなり大きくなってきた。

またも訪れたピンチ。

 

「あああ。どうするんですか!?私が早く行っていれば…」

「落ち着け。君がおとりになる必要なんてないと言っているだろ」

「でも、あなたは魔法つかえないし、私ひとりじゃどうしようも…」

 

再びわたわたとあわてだす遙に、やれやれといった様子で首を振った仮面の男は、遙の隣に立った。

彼は足音の聞こえるほうをじっと見つめながら、ゆっくり彼女のほうに向きなおる。

 

「よく聞いて。俺の言うようにしてくれ」

「ええ?でも魔力は…」

「俺が使えなくても君は使えるだろう」

「じゃなくて、私、魔力を自分でコントロールできないの」

「やり方を教えてやる。いいから、言うとおりにしてくれればいい」


「いたぞ!あそこだ!!」

 

見つかってしまったらしい。その声と同時に、たくさんの人がこちらに向かってくるのがわかった。

あんな人数、私のコントロールできない魔法でどうにかできるわけがない。

そう思って、遙は弱気になった。

ちらりと隣の仮面の男を見ると、口元を引きむすび思案しているようだ。

遙の心にはあきらめの気持ちが生まれていた。

 

「…やっぱり無理です。私には…。今からでもいいから逃げてください。あなた足が速いから、きっと大丈夫」

「何度言わせる!?無茶だ。どうして無理なんだ?あきらめるのか?」

「でもっ!」

 

目がかすむ。それが涙のせいだと気付くのに時間はかからなかった。

生命の危機、恐怖が涙となって流れ落ちる。

長いことひとりで旅をしてきて、何度も命の危機にさらされ、やっと見つけた道標。

でも、もう、心が限界に来ていたのだ。

メイギカに向かっているという理由だけで助けてくれた仮面の男。

長いこと一人でいたせいで、抑え込まれていた感情がせきを切って流れ出した。

ぼろぼろと大粒の涙。

 

どうして私は泣いているんだろう。

この旅が始まってから、ずっと泣かずにやってこれたのに。

 

仮面の男は、遙の涙に気づき、そっと白い手を伸ばし細長い指で遙の頬をぬぐう。

何度も何度もぬぐう。

 

ごめ、なさ・・・えっく。どうして…とまらな…

 

 

「見つけたぞ!!」

 

遙がぼろぼろと泣いているところに隊長が飛び込んできた。

ほかの隊員や村人たちも各々武器を持って来たが、二人の様子を見て驚いている様子だ。

でもとりあえず、二人を取り囲み武器を構えた。

 

「ひっく…ぐすっ」

「なに泣いてるんだ?…まあいい。殺して泣きやませてやるよ」

 

といい、にやりと笑う。

 

「ハッ。仮面優男。女泣かせて何やってんだ!さっきはよくも逃げてくれたなぁ!もう逃がしゃしねえぞ!覚悟しろ!!この機械の威力を知れ!!・・・」

 

とニヤニヤ笑いながら嬉しそうに隊長が言いたい放題言っている間、仮面の男は遙に耳打ちした。

 

「心配はいらない。君ならきっと大丈夫だ。俺の言う通りに言葉を言ってくれ。そして精霊たちに念じるんだ。強くね」

 

やっと涙が止まり始めた遙は、こくんと頷く。

 

「あきらめちゃいけない。まだ何も終わっていないのだから」

 

第10話へ

1章目次へ

ランキング(NEWVEL投票ランキング)
気に入っていただけた方、クリックお願いします♪
(ひと月ごとリセット)

 

一言:隊長って単純そう。