メイギカ 第2章 第22話 〜店での修行〜
午後もいっぱいになって、やっとすべての部屋の掃除を終えた遙。
実際はただの掃除だけでなく、窓を拭いたり、棚の上を拭いたり、いろんなことをやったせいで体はもうくたくた。
来夜が言うには珍しい昼間からの宿泊予約客があったせいで、トイレや風呂掃除もやるはめになった。
疲れて部屋で休んでいると、ごはん食べる〜?と声が。
お腹すいた…。
言われて思い出し、階段を駆け降りた。
今日も営業日で、来夜は開店の準備をしている。
支度の合間を縫って、来夜も軽く食事をとった。
「もー。助かったわ。今日の下ごしらえがゆっくりできた♪」
「ははは。良かったです役に立てて」
「あらん、まだ全然余裕な感じ?じゃぁ明日はまた別のこと頼むわね〜」
「え・・・?あ…!?」
遙は何となく、いやな予感がした。
それから1週間。
宿や酒場の仕事も手伝いつつ、来夜いわく修行という名の肉体労働が続いた。
掃除は毎日、料理の下ごしらえの手伝い(ひたすら皮むきなど)、買い出し、屋根の修理、庭仕事、ヨッパライの介抱…
遙はさすがに、来夜の『修行』に下心を感じ始めた。
体よく雑用に使われている気が…
ま、まさかね・・・
旅慣れて体力もある遙だからこそ続いているようなものだろう。
おかげで、店の常連やその家族などと仲良くなれたが。
「あれ?来夜さん。今日は閉店なんですか?」
「んー。そうよ〜」
遙が玄関の外を掃いていると、来夜がやってきて扉にいつもかけてあるプレートを、『準備中』から『へいてーん』に換えた。
だったら準備中のままでもいいんじゃないかと思ったが言わなかった。
と、今日の買い出しを思い出して訊いた。
「アレ?でも今日も店の準備しましたよね。まだ今日は宿泊の方はなかったと思うんですけど」
「まーある意味開店よ」
「?」
来夜はそう言って店の中へ戻っていってしまった。
来夜はいつもこんな調子だ。
後でわかるようなことはほとんど説明しない。だからいろんなことを想定して行動しろということなのだろうか…
本人からまだ特に教えは受けてないのでよくわからないが。
来夜が掛けた閉店プレートを眺めながら、遙はふぅっとため息をついた。
考えてもしょうがない。支度しなきゃ。
「ん?」
閉店プレートが玄関の隅におちてる。
閉店プレートだけ2枚ある…なんでだろ。失くしてたのかな??でも色がちょっと違う。しかも、『閉店』だ。
「はるか〜ちょっとー」
「あっ、はーい」
遙は来夜に呼ばれ店に消えた。
店内。
来夜はお湯を魔法で沸かしている。遙はその様子をじっと見ていた。
「まーさっきは閉店とか開店とか言ったけど」
「はい」
「開店するから。今日のお客はふつーと違うのよ。…まー私にとっちゃ誰もおんなじだけど」
「ふつーと違うんですか。まさか」
「ああ大丈夫よ。アブナイ客じゃないから」
「本当ですか?」
「ほんとほんと。鼻ピーとかしてないから」
「ほ、ほんとですよね?」
「しつこいわよ。…掃除お願い★」
遙は案の定掃き掃除を命じられた。
鼻ピーと鼻ピアスのことである。そして鼻ピーとはやーさんの代名詞だ。
遙は買い出しの際絡まれそうになり来夜に助けられてから、鼻ピーの印象はさらに強くなったのであった。
田舎暮しで都会の常識が欠けているためどうしようもなく警戒してしまう。
なんなのよ。ふつーじゃないお客様って。
来夜は花瓶に花を生けながら「そろそろ来るころね」と言った。
「い〜い。粗相のないように」
「ハッハイ!!」
粗相のないようにって…
遙は恐ろしくなって来夜に提案した。
「部屋帰ってもいいですか」
「だめよ〜せっかくだから会っときなさい」
一瞬で却下。
「粗相、しちゃいますよ」
「平気よ。あたしがなんとかしたげる」
「なんですかその根拠のない自信は」
「根拠あり。大いなる自信があるわよー」
まったく、だったら普通にどこのだれが来るとか言ってくれればいいのに。
来夜は言わないばかりか、後でそうだったのかと分かる遙の反応を楽しんでる節がある。
というか、肝心なことは言わないであたふたしている遙がいいらしい。
変な趣味。
遙にとってはいい迷惑だ。
でも、これもなんか魔法に関係するのかなーと思っておとなしく受け入れている。
文句はたっぷりあるが、置いてもらっているのは確かにありがたいし。
自分って偉い。最近は特にそう思う遙だった。
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一言:さあ御客様はどなたでしょう。