メイギカ 第2章 第23話 〜ふつーじゃないお客様〜
カランカラーン
入口のベルの音が鳴る。
「いらっしゃ〜い」
「どもー」
「じゃましまーす」
入ってきたのは若い男性が4人。背の高い細身の男、黒髪の少年、赤毛の青年、そして金髪の青年。
来夜はにこやかに出迎えた。
あの人…
結局おびえて遠目から見ていた遙は、最後から2番目に入ってきた男から目が離せなくなった。
長い金髪に、すらりとした体躯。遙から見えている左目は紫色だ。
一瞬しか見ることができなかった仮面の男…ジンに似ている。
違うのは、服装の違いややいつも持っていたリュック、そして仮面がないことだ。
彼は一目で高貴な血筋と分かるシンプルだが仕立ての良い服を着ている。色は深い深い青。
彼なのだろうか。そう思ったら、なぜか心がとくりと跳ねた。
その男は来夜と親しげに話したあと、一番はじめに席に着いた。
ほかの男性客たちもそれに次いで順々に座っていった。
「遙ぁ〜。グラスとか人数分持ってきてー」
来夜が声をかけてくる。
遙はあわててカウンターの中に入りグラスを取りに行った。
来夜が話すのが聞こえる。「あの子は遙って言って、あたしの新しい弟子なのー」
それを聞いた男たちの視線を感じる。男性に慣れてない遙はそのままカウンターに潜っていたいぐらい恥ずかしかったが、彼らのことも気になるのでそろそろと出てグラスを並べに行った。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
声も似ている。遙はそう思いグラスを置きながらちらりと見てみた。
ハッとする。彼の右目は青い瞳だった。左右の瞳の色が違う。
遙はメイギカに来てから何回かそういった人々を見たが、ここまで鮮やかに異なるのは初めてだった。
とっても綺麗…思わず見入ってしまう。
男は遙の視線を感じてか軽く会釈をした。
でもそれだけだった。特に挨拶はない。こちらからするべきなのだろうか。顔は微笑んでいるがなんだか雰囲気が近寄りがたい。
それ以上見ていられなくて目線をそらした。
その間に来夜はワインのボトルをあけ、遙が並べたグラスに注いでいく。
5つのグラスに注ぎ終わると、一人の男がグラスを持って立ち上がった。
赤毛の短い髪に大きな茶色の瞳。この中では一番大柄だ。
彼は人懐こそうな笑みを浮かべていった。
「じゃっ、乾杯しますか。あ、遙ちゃんだっけ?早く座って座って」
「あらー。自分のグラスは?ダメねー。ボトルで飲みたいの〜?」
「え?え?」
座ってと言われて焦る遙。来夜にもたたみかけられ、あわてて自分のグラスを取りに行った。
笑顔満開の赤毛の青年になみなみとワインを注がれる。
(いや、私お酒飲んだことないんだけど・・・)
遙があんぐりとグラスを眺めていると、学者風の細身の男が大丈夫だというように何度も頷いて言った。
「このワインはそんな強くないから大丈夫。それに飲めなかったらここにいる酒豪が飲んでくれるよ」
「あ、はい…(酒豪?)」
「んじゃ、今日も一日お疲れさまーっ!メイギ…」
「カンパーイ!」
カチーン
「お疲れー」
めいめいそう言いつつワインを口に含んだ。赤毛の青年はもうお代わりを来夜についでもらっている。
遙も思い切って一口飲んでみたがのどが焼けてむせただけだった。
遙が人知れずむせている中、今まで黙っていた、遙と同年代らしい黒髪の少年が呆れたようにつぶやく。
「いつも思うけど・・・ダサくない?その乾杯の」
「いーのよー。これは伝統なの。メイギカンパーイ!」
来夜はそう言ってワインをあおった。遙はそんな来夜を突っついてコショコショと訊いた。
「いい加減教えてくれません?」
「えー?」
「だから、今日は何なんですか?あの人たちは?」
「今日はあたしの教え子たちと飲みか―い♪」
「酔っぱらってるんですか?」
「そんなことないよ〜。しょーがないなー。じゃー…あんたたち自己紹介なさい!」
酔っているのかそうでないのかいまいちわからないが、とりあえずこの人たちは来夜の生徒だったらしい。
おそらく貴族であろう彼らまで教えていたとはやっぱりすごい人だ。
そんな師に言われ、彼らの自己紹介が始まった。
はじめにあいさつしたのは赤毛の青年だった。
彼は珠洲月 晴(スズキ セイ)となのり、ドラゴン使いだそうだ。現在20歳で、王宮勤めをしているらしい。
学者風の青年は舞入 紫穏(マイリ シオン)という名で、やっぱり学者らしい。年は27歳だという。若く見えたので遙は驚いた。
何を研究しているのかは教えてくれなかった。ただ、晴には「気をつけた方がいいよ、変な薬とかの実験台にされたりするから」と耳打ちされたので、危ない研究でもしているのだろうか。
黒髪の少年は夕衛 永遠(ユエ トワ)と言い、剣士だという。クールな性格なのか、最初は名前だけしか言わなかったが、晴がしつこく質問して剣士だというのがわかった。年は17歳だという。これも晴に言われてぼそりと言った。
最後に自己紹介したのはあの金髪の青年だった。
「俺は千魔 皇羽(センマ コウウ)」
そう言って彼は微笑んだ。金髪が揺れる。
「ようこそメイギカへ」
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一言:人が急に増えてきました。
メイギカンパイって…笑
一人カンパーイって言った後みんながカンパーイっていうやつね。それの最初のカンパーイの代わりのようなもんさ。なんちゃって。