メイギカ 第2章 第24話 〜彼らの正体〜

 

「ようこそメイギカへ」

 

ジンのそっくりさんである皇羽と名乗る人物はそう言って優雅に一礼した。

丁寧に挨拶されて、遙もあわてて頭を下げた。

 

「い、いえ。わざわざありがとうございます。皇羽さん」

 

そういうと、残りの客人3人はお互いに顔を見合わせ、「やっぱりな」としたり顔で頷いた。

来夜はにこにこしながら酒をあおっている。

 

遙はそんな3人には気づかず、(皇羽さんてなんか近寄りがたい…たぶん貴族の人なんだろうなー)と考えていた。

ただそう思っているにもかかわらず敬称が『様』などでないのは、遙は貴族に会ったことがないからわからなかっただけ。

遙のイメージ的に一番高級(?)そうなのは皇羽だった。

ジンに似てはいるが、遙はジンに対してのように皇羽と気安く話せない。それはたぶん、皇羽のまとう雰囲気によるものだろう。

そんな考え事をしていた遙は、晴の一言で意識を引き戻された。

 

「耀ちゃん、遙ちゃんになんか言った?」

「えー。べっつにぃ〜」

「なに、完全に誰が来るか知らなかったの?あの子」

 

皇羽も話に交じる。

 

「まあ予想はつくけど」

「それってどーいう意味よぉ。あたしちゃんと言ったわ。ふつーじゃないお客様よって」

「ふつーじゃない…」

 

紫穏が苦笑いをしながら言うと、来夜はブスッとしてまた酒をあおった。

ふつーじゃない客と称された永遠はがっくりきたようだった。

 

「でも教えたほうがいーんじゃねーの?」

「確かに…」

「知らないままでいるのもなんだか、ねぇ」

「これでもちょくちょく顔を出すお得意様だもんねー」

「なによ、あたしが悪いっていうのー?」

 

一人だけ状況の飲めない遙はにこにこしながら(実際はつくろい笑い)脳内で忙しく頭を働かせていた。

どうやら何か教えた方がいい重要な何かがあるらしい。

それは来夜の言うふつーじゃないことに何か関連するらしい。

なにを教えてくれるんだろう。

自分たちは実は貴族です、みたいなことならもう予想済みだ。

少なくとも皇羽は貴族であるはずだ。これで庶民だったらメイギカはすごい。ほんとの貴族はどんなもんか想像もつかない。

 

いつもまにか遙を除く5人はじゃんけんをしている。

じゃんけんをしているときはいたって普通なのだが…じゃんけんであいこになると、いちいち長い。

そのやり方が変だ。ただ永遠だけが、呆れたようにその様子を眺めておとなしく待っている。

みんな組んだ腕をねじって持ち上げ、真剣にこぶしを覗き込んでいる。

そして覗き込みつつチラチラと視線を走らせ、お互いけん制しあう。

静かな時が流れる。

 

「〜〜〜!ジャンケンポォーン!」

 

声にならない何かを発した後、3度目のあいこのじゃんけん。

一瞬で勝敗は決した。

 

 

「しょうがないわねー。遙、あのね、この人たちは私の教え子なんだけど…」

「はい、さっき言ってました」

「皇羽はこの国の王子なの」

「へぇーそうなんですか。ってえええええ!?」「ええええええ!?

 

じゃんけんで負けた来夜のセリフに、なぜかほかの全員がビックリ仰天した。

衝撃の深さに、遙は聞こうと思っていたさっきのじゃんけん前の何かを忘れてしまった。

 

「えええええ!?なんで皆さんもびっくりしてんですかっ!?」

「えええええ!?だって、耀ちゃんがふっつーに言うからっ」

「えええええ!?何でよ、ちゃんと言ったじゃない。びっくりさせないでよっ」

「えええええ!?だってふつーはちょっと溜めるもんでしょう!」

 

そうだそうだと頷く本人含む3名。

 

ゼイゼイと肩で息をしながら来夜は言った。

 

「事実は事実。発表する順がどーであれあたしは間違ってないわよーだ」

「はいはいそうですねー」

「ていうかもうちょっと詳しくとか、補足とかないんですか?」

 

遙も落ち着きを取り戻して言った。王子なの。だけじゃあんまりにもずさんな説明だ。

来夜はまた酒をあおり、しょーがないわねーと言わんばかりに話しはじめたが、酒が回ってきたらしくだんだんろれつが回らなくなってきた。

本当に来夜は説明がいやらしい。これでよく魔法を教えられるものだ。そう永遠が突っ込むと、「魔力はぁ、ふぃーんぎゅー…プハ」といってまたグラスを空けた。フィーリングと言うことか。関係あるのかな。

ともかく紫穏のいう「酒豪」が誰だかわかった気がした。いつの間にか遙の一口しか飲んでないグラスは空になっている。

 

仕方なく、来夜の次に年長者である紫穏がはなしだした。

 

 

結論から言うと、皇羽はメイギカ皇子で、晴と永遠は彼の付き人だそうだ。

そして紫穏は、皇羽のもとで研究をしているという。

全員は確かに来夜の教え子で、来夜が王宮勤めを辞めてこうして酒場を経営するようになってからもちょくちょく飲みに来ているそうだ。

ただ王子という立場上、皇羽が来るときは貸し切りになる、とそういうことらしい。

 

「…そうだったんですか。すみません、知らなくて。えと、失礼いたしました」

「べつにいいよ。そんなかしこまられても困るし」

「そうそう、ここは王宮じゃないんだしさ」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、お互い耀師の教え子として仲良くしようじゃない」

「そ、そうですね…」

 

遙はまだ特に教わってないので苦笑いした。来夜はふらふらしながらさっきからつまみをつくっている。

平気なのかと聞いたら、いつものことだからと言われた。

 

「遙ちゃんは今何やってるの?」

「へ?何ってなんですか」

「魔法習ってるんでしょ」

 

晴の質問に、?マーク全開の遙。魔法なんてまだ何もわからない。そういうと、みんなはそうかそうかと軽くうなずいた。

 

「あの人、まともなこと教えてくれるまでに半年かかったぜ」

「最初つらかったな〜」

「ある意味厳しい先生だよな」

 

4人はうんうんとお互いの言葉にうなずく。遙も半笑いだ。何となくわかるから。

 

「遙ちゃん学校には行ってるの」

「学校?いいえ?」

「あーそれは厳しいな。学校いってりゃ基礎的なことは教われるけど…」

「学校なんてあるんですか」

「まあ、できたのはここ10年15年の話だけど」

 

その学校というのは、メイギカの公式な宗教である精霊教の教会に併設されているという。

一般庶民が学べるようにと現国王、つまり皇羽の父が行った政策らしい。皇羽はそれについて多くは触れなかったが、尊敬できる父親であることは話す口ぶりからわかった。

ほかの3人も、現国王は尊敬すべき人であると認めているようだった。

 

「精霊教っていうのは、この世を統べる魔に密接にかかわる精霊を信仰する宗教なんだ。地域によって信仰する精霊は違うけど、もとはおんなじだから統一されてるのさ」

「魔法学校はその精霊教の教会に併設されてる。基本的な魔法はここで教われるんだ。高度な魔法を習うには試験をパスしないと勉強できないんだけど」

「へぇぇ…じゃあ皆さんもそこ行ってたんですか?」

「まあね」

 

来夜がつまみを持ってやってきた。でも自分で食べたかもうずいぶん減っている。

 

「耀ちゃん、遙ちゃんにちゃんと教えてあげなきゃ。俺らは学校でいろんなこと教わったけど遙ちゃんは耀ちゃんが教えてあげなきゃなんもわからないよ」

 

晴は来夜を諭すように言った。まるで立場が違う。来夜はスンと鼻をすすり、わかったわと言った。

やった。これで魔法を教えてもらえる。

 

でもやっぱり、来夜はちょっと変だった。

 

「明日から、合宿します!!」

 

パチパチパチ。なぜか拍手が起こり、つまみで乾杯した。

 

メイギ…カンパーイ!!

 

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一言:笑撃はうすいですよね?

ムズイですね。人が多いとしゃべり口でなんとか差をつけなくては・・・