メイギカ 第2章 第28話 〜遙とカゲボウシ〜

 

遙はベッドへダイブした。

自分の体がゆさゆさと揺れるのを感じながら、今日学んだことを脳内で反復する。

魔人のこと、属性のこと、瞳の色のこと…まだ知らないことはたくさんある。

今日のことでも、疑問はたくさん残っている。遙は浮かんだ疑問を忘れないように紙に書いておこうとベッドから起き上がった。

 

遙は紙とペンを持ち机に座る。ふっとみると今夜は綺麗な月明かり。

遙は気分を変え月明かりの差す窓辺で書こうと足を向けた。

 

「ん?」

 

遙の視線はあるものにくぎ付けになった。

一瞬動いたような…?

遙は紙とペンを置き、それを手に取った。

 

「この帽子…」

 

ここにはじめてきた夜、来夜が仕掛けたカゲボウシの入っていった帽子である。

伏せられていたそれをひっくり返す。

覗き込むと、帽子の影から見えたまんまるの目二つと目が合った。

 

「うわっ!」

「ギョッ」

 

あわててそのまま窓辺に置く。

 

(え…!?目が合っちゃった!どうしようまた襲われるかも)

 

そうは思ったが好奇心に負け、置いた帽子をまた覗いてみた。

帽子の中の目はギョロっとこっちを見る。

遙とギョロ目はしばしみつめ合った。遙は意を決して話しかけてみた。

 

「こんばんわ、カゲボウシさん…?」

「……」

「ごめんなさい急にひっくり返したりして…」

「……」

「今日はどこかへお出かけだったんですか…?」

「……ハイナー」

「!!」

 

(しゃべった!しかも出かけるんだこれから!)

 

遙はカゲボウシからの返事を聞いてワクワクした。

重ねて聞いてみる。

 

「どこへお出かけされるんですか?」

「……らいやしノへやネー」

「はあ、来夜さんのお部屋ですか。何しに行かれるんですか?」

「……かいぎダナー」

「会議…ですか」

「……ソウダナー、ていれいかいダナー」

「定例会…よく会議されてるんですね」

「……ソウダナー」

「でも何で来夜さんのお部屋なんですか?」

 

遙は今日見たばかりの来夜の部屋を思い出しながら言った。

あんなごちゃごちゃの部屋で会議なんかできるんだろうか。

 

「……らいやしノへや、なかまイッパイ。ダカライツモソコデヤルネー」

「仲間イッパイなんですか。…なるほど」

 

遙は来夜に聞いたカゲボウシの話を思い出す。

常に影となっている場所に住んでいる種族。来夜の部屋のあのごちゃごちゃはもしかして…

 

「もしかして、だから来夜さんの部屋ってあんな…ものがいっぱいあるんですか」

「……ソウナー。アーイウかげイッパイ、わたしタチだいすきナー」

「そうなんだ…」

「……」

 

カゲボウシは帽子から出てきた。

丸っこいフォルム。黒いからだ。若干メタボ気味の人形のような形ではあるが、よく見ると帽子をかぶっている。

 

「カゲボウシさん、帽子かぶってるんですね」

「……ソウナー。わたしぼうしノかげぼうし。ダカラネー」

「ふふっ。あ、もうお時間ですか。引きとめちゃってごめんなさい」

「……イエ、イッテマイリマスナー」

「行ってらっしゃい。…あの、またお話ししましょう」

「……ハイナー」

 

カゲボウシはするすると移動し、自分の大きさの何倍もの高さの窓辺を音も立てずに降り、ドアの隙間から出て行った。

遙は定例会なるものがどんなか気にはなったが夜も遅いのでもう眠ることにした。

帽子を伏せ、ベッドに横になると、下からまだ盛り上がった酒場の音が聞こえる。

遙はいつの間にか眠りに落ちた。

 

次の日からは本当にやっとというべきか、来夜から魔法の手ほどきを受けた。

王室付きの魔法教師だったこともあり、さすがに来夜は教え方がうまかった。

遙はひと月ほどですぐ基礎の魔法もマスターしてしまった。

その間では何度か晴や永遠、紫穏などがやってきて座学を教えてくれる。

来夜は遙の覚えの良さに気分を良くしていた。

遙は遙で、魔法の勉強と仕事とで忙しく、目まぐるしく月日が過ぎたように感じていた。

 

「ふわぁー疲れたぁ」

「……オカエリナサイはるかし」

「ただいまー」

 

疲れて帰ってきた遙をカゲボウシが迎える。

あれから、夜はカゲボウシと話をするのが一日の締めくくりになっていた。

今日あったこと、会った人、学んだこと…そんな事をお互い話し合う。

魔法関係でわからないことはカゲボウシが大体教えてくれた。

 

「聞いて聞いて!とうとう明日だよ!ソラちゃんとの王都城下への旅!!」

 

『ソラちゃん』、というのは来夜の店の近所に住む遙と同年代の少女だ。

よく買い物などで会って仲良くなった。本名は天空(てんくう)だが、呼びづらいのでソラと呼んでいる。大地(だいち)という弟がいる。

晴や永遠たちの話を聞いていきたいと思っていたところ、来夜の許しが出ていけることになったのだ。

遙も天空も王都へはいったことがないのでとても楽しみにしていた。ここからだとそんなに遠くはないのだが、忙しくて行けずにいたのだ。

 

「……ソウデスカ。イイデスネおうと。オみやげカッテキテクダサイナー」

「うんうん。なにがいい?」

「……ナンデモイイデスナー。よくガアサイノネー」

「欲ねぇ…。ま、いいものあったら買ってくるから楽しみにしてて」

「……ハイナー」

「それにしても今日も疲れたぁー。来夜さん仕事どっさりくれるんだもん。しかも肉体労働ばっかし…」

 

今では宿の方の運営をほぼまかされるようになって、やりがいはあるものの魔法の勉強と並行していくと毎日大変だ。

まあ酒場を任されるより楽かもしれないが、毎日掃除洗濯皿洗いは逃れられない。

ちなみに今では当初のノルマと言われた皿洗いもほぼできるようになっていた。

 

「……オツカレデスネ。デモらいやしハソウイウかんがえヲモッテヤッテキタヒトデスカラネー」

「そういう考え??」

 

肉体労働をさせるってことがそういう考え?遙は意味がのみこめず首をかしげた。

 

「……はるかしハまほうつかいハナニガだいじカシッテマスカネー」

「魔法使いに大事なこと?うーん。…精神力とか?精霊に意思を伝える力はやっぱ精神力だと思うし…」

「……ソウデスネー。デハ、せいしんりょくヲキタエルニハドウスレバいいトオモイマスカネー」

「…坐禅とか?瞑想?う〜ん。そういうのじゃダメかなぁ」

「……アルいみアタリデスナー。デモらいやしノかんがえハソレジャナインデスナー」

「じゃあ何をすればいいの?肉体労働てこと?」

「……ソウイウコトデスナー。らいやしノかんがえハにくたいヲキタエルコトデせいしんヲキタエルトイウコトナンデスナー」

「じゃあだから来夜さんは私に肉体労働をさせるんだ」

「……ソデスナー」

「そうだったんだ…」

 

遙は反省した。

 

(働かせて体よく雑用に使っているのかと疑った自分を許して下さい…)

 

はじめのころほとんど魔法の勉強をしなかったのも、もしかして先に精神力を鍛えるため…?

今こんなに魔法の勉強がはかどっているのもそのおかげなのかも。

そんな意図があったなんて…。

遙は思った。

 

一生ついていきます!!

 

 

次の日。

新たな気持ちで目覚めた遙は、迅速かつ丁寧にいつもの日課(掃除)をこなし、洗濯、皿洗いをし、来夜を迎えた。

 

「来夜さん!おはようございますっ!」

「あら、今日は元気ねー。確か城下に行くんだったわね。支度してらっしゃいな」

「ハイッ」

 

来夜は遙の張り切りぶりを城下に行けるせいだと思った。

遙は来夜の仕事を少しでも減らそうと頑張っていたのだが、来夜が知る由もない。

 

支度を終えた遙が戻ってくると、来夜は財布を渡した。

 

「この中に買ってきてほしいものが書いてある紙入れといたから、買ってきてねー♪残ったお金は自由に使っていいわよー」

「えっ…いいんですか?しかもこんなに」

「いいわよー。だっていつも働いてもらってるからぁ」

「ありがとうございますっ!」

「いろんなお店あるから楽しんでらっしゃい。あ、もし高くてもあたしの名前いえばまけてくれるからー」

「ええええええ!?」

 

「遙ちゃんいるー?」

「あっソラちゃん!おはよっ!」

 

細身の少女が入口から顔をのぞかせる。天空だ。

遙は天空に駆け寄った。

出かける二人に来夜が声をかける。

 

「ちゃんと地図持ったー?」

「持ってまーす!」

「城下の近くまで来たら晴が迎えに来てくれるっていうから案内してもらいなさーい」

「はーいいってきまーす!!」

 

二人は出かけて行った。

 

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一言:カゲボウシと天空ちゃんの登場。

来夜ののんびり口調とカゲボウシの語尾が若干似てる。。。笑

日付け的には一気に進んじゃいましたね。

更新遅くなって申し訳ありまへん…;