メイギカ 第2章 第29話 〜初王都と再会〜

 

遙と天空は順調に王都へと向かっていた。

忙しい(と遙たちは思っている)はずの晴が時間を縫って王都を案内してくれるというのだ。

特に天空なんかは恐縮して、「絶対に待たせてはいけない」とさっきからサクサクと速足で遙を引っ張っていく。

まあ、確かに王室(というか第一王子)付きの付き人なんてやっている晴はかなり有名人で、庶民はおいそれと話しかけられないぐらいなのであるから当然と言える。

晴にしてみればフレンドリーにしてるつもりみたいだが。

そんな様子なので、天空は「まずは遅れずに待ち合わせ場所に行く」ことを目標に、いろいろ目移りする遙の面倒をきっちり見ててくれている。

遙が物珍しさできょろきょろしてしまってもどんどん進んでくれるので、予定よりも早く約束していた場所までつけそうである。

 

「ねぇねぇソラちゃん!見てよ!あれトラでしょ?」

「あら、ほんとだわ。猛獣使いさんかもね」

 

「あっ!なんか露店が並んでる!」

「帰りに見ましょう。ね?」

「あ、はーい♪」

 

「うわぁ。変な乗り物ー」

「機械の乗り物かしらね?この辺じゃ珍しいかも」

 

「ねぇねぇ!あれあれ!」

「帰りにじっくり見ていいから、今は急ぎましょう。晴さんを待たせたら大変だもの」

 

こんな調子で、ザクザク進む天空に、はしゃぐ遙の二人は王都近くの小さな宿場町・ニフロテスに着いた。

ニフロテスは王都で働く人々が多く住んでいる町で、王都への観光者向けに宿も多く、狭いなりにそれなりに栄えている町だ。

 

遙たちは街の通りを人並みに進んで行った。

都会が近いせいか町の様子もあか抜けた感じがする。細かい装飾の施された街灯、綺麗に形を整えられた街路樹。

立ち並ぶ家々も遙たちの住む町の家々に比べると豪奢だ。

天空は道にたてられている看板を見て辺りを見渡した。

 

「晴さんと待ち合わせしてるのはここの広場だけど…」

「どこかな?」

 

きょろきょろとしてみてみると、何やら人だかりができている。

遙は地図を見ている天空を突っつき、人だかりを指さした。

 

「あ、ねえねえ見てソラちゃん。人がいっぱい集まってるよ」

「ほんとだわ。何かイベントがあるのかしら。そうだとしたらあそこは広場かもしれないわね」

「行ってみよう」

 

そこに向かった遙たちはすぐ、人だかりの原因がなんだか理解した。

 

「あ、あれ…」

「ドラゴン…」

 

ドラゴンがいた。

 

遙たちは口をあんぐりとあけ、呆けたように立ち尽くした。

自分の見ているのものが信じられない。目に映るこの雄大な生きものが本当に目の前にいるのか。

ドラゴンというのはそれほど、本能的に人に畏敬の念を抱かせる。

鱗におおわれた大きな体に、今はたたまれているがそれに負けず大きな翼。牙の見える大きな口に、ガラス玉のような瞳。

今は行儀よく座っているが、その手足はがっしりとして、何人束にかかってもかなわないぐらいの頑丈さだという。

ごつごつとした体つきなのにもかかわらず、その姿は泰然として美しい。

 

黙って見つめていた二人で、先に息を吹き返したのは遙だった。

吸い込まれるように見てしまうその姿から無理やり眼をもぎはなすと、傍らに知った顔がいるのが見えたのだ。

 

「ソラちゃん…晴さんだよ」

「…」

 

遙は天空の体をゆすって気を取り戻させた。

 

「あ…遙ちゃん」

「晴さんがいるよ」

 

天空はまだぼうっとした様子でちらりと視線を移した

 

「あら、ほんとね。そっか、晴さんはドラゴン使いだものね」

「行こう」

 

遙たちは人垣をかき分けかき分けしながら進んだ。

人々の様子は様々で、さっきの遙たちのようにボケっとしている人もいれば、熱心にドラゴンの様子をスケッチしている人、手をすり合わせて何やらお祈りをしている人などもいた。

さらに近寄ると、怖くないのかドラゴンに触っている人までいる。何人かの子供たちにいたってはドラゴンの背中で遊んでいるようだ。

もちろんドラゴンはおとなしくしている。晴はその近くに立っていた。

 

人の波から抜け出すと、晴もこちらに気づいたようで近寄ってきた。

 

「やーや。長旅御苦労さま。迷わなかった?」

「いえ、ぜんぜん。ソラちゃんがしっかりしてて」

「それより晴さん、お待たせして申し訳ありません・・・」

 

天空がうつむくと、晴は困ったようにわらった。

 

「いやいや、全然待ってないから大丈夫。それよりどうする?すぐ王都まで行くか、ちょっと休憩する?」

「いえ、私たちは大丈夫ですから」

「そっか、じゃあ行こうか。まあ乗って乗って」

 

遙と天空は思わず顔を見合わせた。

乗る…って。もしかして。

 

困惑顔の二人をよそに、背中に乗っていた子どもを降ろした晴はドラゴンに合図して頭を下げさせた。

そのまま軽く飛び乗ると、二人を手招きする。

 

「はやくおいでーっ!怖くないよー」

 

二人は笑顔の晴と、間近に来てしまったドラゴンの顔、そしてお互いの顔を見合せた。

 

「よしっ!乗るぞドラゴン!」

「こ、怖いわね」

 

言いながら、二人もドラゴンの背中へと上がった。

周囲からおおおー!っと声が上がる。

 

「まあ座ってよ。大丈夫、落ちないから」

 

座ってよ、という言葉通り、なぜかソファが背中にはくくってあった。

 

「リュックみたいにしょわせてるんだ。ホラ、やっぱ初めて乗る人は怖がるしね」

「へぇぇ〜」

 

ソファに座ってみる。ふかふかの座りこごちの良いソファだ。

ただベルトが付いているのが少し変だけど。

二人はベルトもきっちり締めた。するとドラゴンが羽ばたきだす。

 

下の人々が見守る中、ドラゴンは飛び立った。

 

 

鞍上では、猛スピードで流れていく景色に感嘆の声が上がっていた。

 

「はっやーい!」

「そうでしょうそうでしょう」

「全然揺れないです」

「そうでしょうそうでしょう」

「さすがドラゴン使いですねっ」

「そうでしょうそうでしょう」

 

晴は満足げに頷いた。ちなみに、晴は先ほどまで皇羽のお使いに行っていて、それで間に合わなくなりそうだったのでドラゴンに乗りそのまま来たらしい。

あのニフロテスの町には何度かドラゴンで訪れており、町の人もすっかり慣れているそうだ。

だからあんなに町の人は普通だったのかと二人は納得した。

 

そんな事を話しているうちに王都の町並みが下に見えてきた。

晴はドラゴンに指示を与え、王都の門の近くの空き地に降り立たせる。

二人に手を貸しておろすと、晴はドラゴンに合図した。

ドラゴンは再び飛び立ち、軽く旋回をして飛んで行った。

 

「どこに行ったんですか?」

「うん、ミミのすみかにね」

「ミミ?」

「あの子の名前」

 

遙と天空はまた顔を見合わせた。

 

「ちなみにミミは女の子です♪美人だっただろ??そいじゃ、行こうか」

「あ、はい」

 

晴の後について王都の門へ向かった。

王都だけあって、門から他と違う雰囲気が漂ってくる。とにかく門からひろい。

馬車などの乗り物がひっきりなしに出たり入ったりする。

もう何も言葉が出ない二人に、晴が苦笑して声をかける。

 

「ここは2番目に広い門だよ。そんな驚いてたらやってけないぞ。はいはい、ボーっとしないで、歩行者はこっち」

 

歩いて入る人用の道があった。やっぱり歩行者も多い。遙たちのような一目で田舎者と分かるような人もちらほら見かける。

遙はそんな人たちを見ては人知れず安堵していた。

自分が田舎っぺぇぺぇだという自覚があったからだ。田舎っぺは自分だけじゃないと自信を持って門をくぐっていった。

 

「うわぁ〜」

 

もう今日は感嘆してばかりだ。

王都の町並みは、華やかという言葉では追いつかない。

高く尖った明るい色の屋根の家々。道は整備され、馬車が行き交い、目の前に広がる広場には大きな噴水。

そこからまっすぐ伸びた道はそびえたつ王城へとつながっている。

その道に沿ってある花壇には、季節の花が咲き乱れ、人々の目を楽しませる。

行き交う人々も都会的で洗練されており、彼らも町の一部として町並みの美しさに花を添えているかのようだ。

 

とにかく、遙の見たことのある場所で一番都会であることは間違いなかった。

 

「どよ?初王都は」

「すごい綺麗な町…」

 

天空も同じように感じているのだろう。遙の言葉に大きく頷いた。

晴も頷き、にっこり笑って言った。

 

「ようこそ王都へ。…さあ、どこを案内する?お昼にしようか?」

「そうですね…おいしいところあったらよろしくお願いします」

「よしっ。じゃあついといで!」

 

と元気よく歩き出した晴は、5歩ほど歩いて急に立ち止まった。

後ろにいた遙は思いっきりぶつかってしまった。

 

「ぶはっ!」

「あっ、ごめんごめん。ねえ遙ちゃん、仁に会いたくない?」

「へ?じんさん?」

「うん」

 

遙は急にジンの名前を出されてどきりとした。

ここのところ忙しく、ジンのこともすっかり忘れていたのだ。

 

「仁さん、ここにいるんですか?」

「うん。遙ちゃんのこと気にしてたよ。耀ちゃんのところ行ったって聞いて」

「そうなんですか。ぜひ会いたいです!」

 

遙にとってジンは恩人だ。まだちゃんとお礼も言えていないし、何よりまた会いたいという気持ちが彼女の中でずっとあった。

そんな彼女の言葉に、晴は頷き笑った。

 

「そいじゃあ、ご飯を食べたら連れて行ってあげるよ」

 

 

 

昼食をとった遙たちは晴の案内で町はずれへと向かっていた。

王都だからか、町の中心から離れていっても町並みはほとんど変わることなく続いている。

遙はここにきてから何回か来夜や晴たちにジンについてそれとなく聞いてみたのだが、ハッキリしたことは全くわからなかった。

わかったことと言えば、へんな薬屋さんで、来夜の教え子で、晴の知り合いで、永遠にとっては上の立場らしいこと。

天空によると、来夜の店にもよく来る客で、あの町にも薬を売りにくるそうだ。体の弱い天空も薬を買ったことがあり、「よく効くわよ」と太鼓判を押していた。

 

「おいしかったですね」

「そうでしょー?」

「あれ、なんていう食べ物でしたっけ」

「らあめんだよ。今はやってるんだよねー」

「らあめんですか。あののど越しが何とも言えないくらいで…」

 

そんな話をしながら歩いていくと、遙の目に男性の後ろ姿が映った。

長い金髪にマント。肩にはリュック。人目を引く容姿。

ジンだ。

 

遙がそう思って声をかけようとすると、彼はゆっくり振り返った。

 

第30話へ

2章目次へ

ランキング(NEWVEL投票ランキング)
気に入っていただけた方、クリックお願いします♪
(ひと月ごとリセット)

 

一言:再会です!

再び更新が遅くして申し訳ないです;