メイギカ 第2章 第30話 〜ジンとの再会〜
振り返った男性は、やっぱりあの仮面をつけている。
その男性…ジンはこちらに気づいているのか、手を軽く上げて歩み寄ってきた。
遙も駆け寄り、笑顔を見せる。晴も手を振り返し、天空は小さく会釈した。
「じ、仁さん!」
「久しぶりだね」
相変わらず仮面のせいで読めない表情だが、見えている口元は柔らかく微笑んでいて、遙は安心した。
改めてみてみると、やっぱりジンと皇羽は似ている。兄弟なんじゃないかと思えるほどに。
背丈や体型はもちろん、輝くような金髪も、細く長い指も、柔らかく響く声も、見比べることができない分さらに似ていると思わさせる。
仮面をとったら、もしかしたら皇羽とそっくりな顔が出てくるんじゃないかとも思えてくるぐらいだ。
しかし心理的に、ジンのほうが遙にとってほっとする相手であることは確かだった。
そういった点で遙にとって二人は似ているが別人という認識を持っている。
「来夜さんのところにいるんだって?こき使われてない?」
「はい、でもこき使われるだなんて。魔法も教えてもらってて、感謝してもし足りないくらいです」
遙はにっこり笑って答えた。遙にとっては本当にその通りなのだが、ジンと晴は意味深に顔を見合わせた。
感謝という言葉ではっと思い出し、遙は姿勢をただすと頭を下げた。
「仁さん、あの時は助けてくれて本当にありがとうございました。今こうしていられるのも全部、仁さんのおかげです」
「そんな丁寧にしてくれなくていいよ。確かに助けたかもしれないけど、頑張ったのは君自身なんだし。
…まあ、そこまで言われて悪い気はしないけど」
「本当に、ありがとうございました」
「いえいえとんでもない」
そんなやり取りを続けた後、4人は連れ立って王都見物に繰り出した。
町の人はやっぱりどうやら有名人である仁や晴といる二人を少し物珍しそうに見ているようで、二人はなんだか気まずい思いをしたりした。
が、猛獣使いや幻術使いの見世物小屋、土産物屋などの観光客向けの店はもちろん、地域密着型の穴場スポットや景色の綺麗なところなど、様々なところに連れて行ってもらい遙も天空もご満悦だった。
来夜や店のごひいきさん、近所友達へのお土産も買い込み、来夜のお使いもジンたちの手伝いですぐに見つかり、宅配を頼んでひと段落。
そしてかなり申し訳ないことに荷物まで二人に少し持ってもらっている。
「自分らの荷物を持ってもらうなんて申し訳ない」と素直に言ってみたものの、「客人の女性はエスコートするものなのさ」と二人に言われしぶしぶ引き下がることになった。
エスコートなんて縁のない遙には気恥かしさ倍増だ。
彼らのエスコート(というか気配り?)は手慣れたようで、店に出入りの時は必ずドアを開けておいてくれるし、歩道では馬車道側を譲らないし、なんていうか徹底していた。
しかも彼らは二人して美形(一人は顔が半分は見えていないので見えている部分に限って言えば)なので、なんだかんだ悪い気はしない遙と天空であった。
さりげなく手が触れてどきり。という体験を遙は今日何度もしている。
「うわぁ〜。すっごーい!」
「綺麗…」
ふたりの目の前にはため息が漏れるほど綺麗な花畑が広がる。
ここは王室植物館。
魔法の力でさまざまな花が今を限りに咲き誇る不思議な場所だ。
本来は一般人が入れるような場所ではないのだが、遙たちはそんなことも知らずにこの景色を目に焼き付けることに夢中だった。
「本当に綺麗…ここが屋内だなんて信じられないわ…」
天空がため息をつく。
その言葉の通り、ここは屋内であるにもかかわらず魔法の力でまるで外にいるように空が広がり、そよ風が髪をなぜる。
ここの植物館は大いなる魔法の力で作られている。
「遙ちゃん?どうしたー?」
先ほどからしきりに花を見ている遙に晴は問いかけた。
しゃがんでいた遙は立ち上がり、ためらうように視線を泳がせた後、口を開いた。
「いえ、…こんなこと聞いたら変かもしれないですけど。これって…」
「うん。全部幻」
「ええっ!?」
驚いた声を出したのは天空のほうだった。
無理もない。目の前の花々は香りも色も、手触りまでも本物とほぼ変わらない。
幻なのかと目を疑いたくなることは確かだった。
「よくわかったねー」
「ここに何度も来てても全く気付いていない人もいるのに、大したもんだね」
晴とジンがしきりに感心して頷く。
遙は「なんとなくです」と照れ笑いした。
「ここは22代目のメイギカ国王が当時の正妻に贈った植物館なんだ。この場所はもともと普通より多くの精霊がいる魔力の高い場所だったからこうして今まで維持されてるんだ」
「22代って何年前…」
目を丸くした遙は指折り数えようとして今が何代目か知らないことに気づき挫折した。
「でも、維持って、今はだれか管理しているんですか?」
「うん。入る前に館長さんがいただろう?その人が主に管理している」
管理と言っても、どんな花をどの位置に咲かせるか決め館全体の魔力をコントロールをするだけだ。
だが、コントロールは見た目ほど簡単ではないので専門の職員がきちんといる。
ジンは皆の顔を見渡して、頷き出口をさした。
「そろそろ出ようか」
「あ、はい」
やはり若干空の色が異なり、夕焼けの赤が差し込んでいた。
遙はまぶしさに目を細め、隣の天空を見てふと気づいた。
「ソラちゃん、少し疲れたんじゃない?」
「え、ええ…そうかも」
「どうする?もう休むなら部屋押さえてあげようか?帰るようなら晴にドラゴン手配させるけど」
「うんうん」
「え、いや、どうしようかソラちゃん」
ジンの申し出はありがたいが、さすがにそこまで頼ってよいものか。でも体の弱い天空が心配な遙は困ったように聞いた。
天空は植物館で見た時よりずっと顔色がよくない。
「そうね…少し休めば平気だと思うわ」
「無理しない方がいい。すぐそこに知り合いのやっている宿があるからそこに行こう」
天空に薬を処方したことのあるジンは静かに言う。
「はい。すみません…」
天空も申し訳なさそうに目を落とし、遙に「ごめんね」といった。
「そんな、私、気付いてあげられなくてごめん」
「ちがうわよ、いろんなことに夢中で自分でも調子に気づいてなかったの」
遙たちはジンの言った宿へ連れて行ってもらった。
さすがにお金を払わせるわけにはいかないとずずいとお金を差し出すと、「あ、後払いでいいんで…」と言われてしまった。
ジンや晴にこっそり笑われた。
「じゃあ、ゆっくり休みなよー」
晴はひらひらと手を振った。ジンは天空にいつものリュックから瓶を出して粉末を渡した。
「もし何かあったら遠慮しないですぐ呼んで。宿の主人をたたき起せば連絡付けてくれると思うから」
「は、はい」
もしかして天空はひどい病気なのだろうか。体の弱さは知っていても病気に関してはほとんど知らない遙は不安になった。
寝込むと回復が遅かったり、急に倒れたりするのは病気だからなのか。
危ないからジンはなにかあったら呼べなんて言うのだろうか…
「遙ちゃん、部屋に行きましょ」
天空の呼ぶ声で遙はふっと我に帰った。
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一言:再会です!
再び更新が遅くして申し訳ないです;
どーした天空。