メイギカ 第2章 第32話 〜天空と弟大地〜

 

次の日の朝。

遙は疲れているせいもあってかわりとすぐ眠りにつけたものの、不安のあるせいか何度も目を覚ましてしまう。
そのたび天空の様子をうかがい額の布を変えたりしていた。
天空自身も何度か目を覚まし遙にあやまった。

「空が白んできたぁ…」

独り言。天空はまだ眠っているようだ。
カーテンの隙間から外をのぞいてみると朝日が目にしみた。

今日は快晴らしい。

窓の外、昨日の大通りには朝も早くからすでにまばらに人が活動している。
市場でもあるのだろうか。

天空を起こさないようそっと部屋を出て、廊下にある共用水道で顔を洗う。

冷たい。

しゃっきりした頬に手をやり一息つく。

今日は晴に頼んで乗せていってもらおう。

そう思いながら部屋に戻る。

うっすら差し込む朝の光。
やはり天空の様子はあまりよく見えない。
青ざめた顔に早い息遣い。

 

「ん・・・」

 

遙の視線に気づいたのか、小さく瞬きをして天空が目を開けた。
ゆっくりを首を動かし遙と視線を合わせる。

 

「遙ちゃん…おはよう」

「ソラちゃん…」

 

天空はゆっくり体を起こし、咳きこむ。

遙はそっと背中をさすってあげた。

 

「調子はどう?」

「うーん…大丈夫よ。迷惑かけてごめんね」

「迷惑だなんてそんな。いいんだよ!私が王都来れたのもソラちゃんと一緒だったからだし。
王都すっごい楽しかったよね!」

「楽しかったね」

「はしゃいで疲れちゃったのは私も一緒なんだからさー」

「遙ちゃんまだすっごい元気じゃない」

「いやいやー。あー今日は晴さんドラゴン乗っけて連れて帰ってくれないかなー・・・」

「もう。ずうずうしいと思われちゃったらどーするの」

「あードラゴンかっこよかったなぁ」

「もー。でも確かにすごい体験だったわね…」

 

コンコン

 

二人が昨日のことを思い返しているとノックの音がした。

?顔の遙が出てみると、何やらおいしそうなかぐわしい香りとともに晴がいた。

 

「おっはー!遙ちゃん天空ちゃん。疲れはとれたか―い」

「おはようございます!まーまーです。ところで…その小さい鍋は何ですか?」

 

先ほどからただよう不思議なにおいは蒸気のたったその鍋から発せられているようだ。
ニッコリ笑った晴は手に持っていたそれを机に置き、カバンから食器を出した。

怪訝顔の二人をよそに、鍋のふたを開ける。
もくっと立ち上がる湯気。
晴は鼻歌を歌いながらその中身をお椀にあけた。

 

「はーい♪」

「??」

 

中には茶色い液体。海草のようなものや各種野菜が浮かんでいる。
おいしそうなにおいが…

 

「これなんていうんですか?」

「ミソ・スープだよ。地元ではミソシルって呼んでるんだけどね」

「ミソスープですか」

「俺の地元の伝統料理なんだよね。朝はやっぱりミソシルなんだなー」

「へぇ〜。ありがとうございます!いただきます!」

 

3人はミソシルをいただいた。

 

「おいしい…」

「でしょー」

「沁みます〜」

「だよねー」

 

3人はみそ汁を飲みほして一息ついた。

 

「ごちそうさま。…ところで今日二人はどうするつもり?」

「ごちそうさまです。今日…うーん」

 

天空と遙は顔を見合わせた。
天空は起きぬけより多少顔色が良くなったもののまだ調子悪そうだ。

遙は晴につれてかえってもらえないか頼もうと口を開いた。

 

「あの、晴さん」

「うん?…あ、もし帰るようならドラゴンのってかない?近くまで行く用事あるんだよねー」

「え。ほんとですか!?…じゃあ、お願いしていいですか?ね、ソラちゃん」

「え、ええ。お願いします、晴さん」

「おーし、まかせろ」

 

 

そのあと、帰る支度をした二人は晴に連れられて宿から少し行った広場に向かった。
遠目からでも頭が見える。植わっている木々から頭が抜けている姿がなんだかおかしい。
広場には人がまばらにいたものの、ニフロテスで見たときのように人だかりは出来ていなかった。
ドラゴンの存在に慣れているのだろうか。

 

「よーし、ミミ。行こうか」

「ぐるるる」

 

晴が呼びかけると、ドラゴンは喉を鳴らし頭を下げた。
晴は慣れた様子で飛び乗り二人に手を貸す。
二人も乗り、やっぱりしょっているソファに腰掛けベルトを締めた。

バサバサと大きな翼をはためかせ、ドラゴンは飛び立った。

 

 

あっという間に帰り着き、近くの空き地に降り立つ。

 

「それじゃ!俺は行くから。天空ちゃん、お大事にね」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございました!」

 

飛び去るドラゴンと晴を見送り、二人は家へ向かう。
遙は天空の家まで付き添っていった。

弟の大地は不在だった。きっと稼ぎに出ているのだろう。
天空は家に着くとふらふらと椅子に座りこんだ。

 

「大丈夫?」

「大丈夫よ…」

 

そう言いつつも顔色の良くない天空に、遙は人知れずため息をついた。
天空の大丈夫はアテにならない。

遙は半ば無理やり天空をベッドに寝かせた。

 

「無理してたらいつまでたっても治らないよ」

「ごめんね」

「気にしないで。私がソラちゃんに早く元気になってもらいたいだけから」

 

「ただいまー!」

 

声と足音がした。
部屋に駆け込んできたのは天空の弟大地。

ベッドで寝ている姉を見つけると、小さくため息をついて枕元に座る。

 

「また体調崩したのかよ。無理はするなっているも言ってるだろ」

「わかってるわよ…」

 

ふてくされる天空。大地は遙に頭を下げた。

 

「いつもすいません。ちゃんと連れて帰ってくれてありがとうございます」

「あはは…そんなことないよ、私ソラちゃんがいなかったら王都までたどり着けなかったもん。
…そうだ。ねえソラちゃん、大地君にお土産があったんでしょ?どの袋に入ってる?」

「あ。そうだったわ。えーっとね、あの袋」

 

遙は天空の指した袋を持っていった。
何やら箱が入っている。天空の多くない荷物で一番大きい荷物だ。

大地に差し出すと、嬉しそうな顔をして天空を見た。

 

「姉ちゃん、あけていい?」

「いいわよ」

 

箱をあけがさごそする大地。

中に入っていたのは新しい靴だった。

 

「姉ちゃん、これ・・・」

「あんたの靴穴空いてたから。…カッコいいでしょ?」

「うん。…あ、ありがとう!」

 

さっそくはいて歩く大地。

 

「ずげー歩きやすい!…でも、これいくらしたんだ?」

「それは…秘密よ」

「高かっただろ?」

「言わないわよ」

「ふぅ。…まぁlしょうがないな」

 

何やら二人の間に流れる空気。
遙はころ合いを見計らって声をかけた。

 

「あ、私そろそろ帰るね。来夜さんの荷物もあるし」

「あ、そうよね。ごめんね、ありがとう」

「こいつの看病は任せといてください」

「うん、それじゃぁまたね!」

 

家の前まで出てきてくれた大地に、遙は謝った。

 

「ごめんね。こんなことになっちゃって。私も気にしてたつもりだったんだけど」

「遙さんのせいじゃないですよ」

「でも…」

「・・・実は最近、あんま体調が良くなかったんですよ」

「えっ。そうだったんだ。…連れ出して悪いことしちゃった」

 

さらに気を落とす遙に、大地が肩をすくめて自分の新しい靴をさす。

 

「いや。たぶん無理してたんですよ。…これのために」

「え。もしかして、それを買うために?」

「たぶん。王都行きが決まってからやたら働いてたから、買い物資金が欲しいのかって思ってたんだけど…
だから何度も注意したんです。俺が稼いでくるから無理はするなって」

 

大地は目を伏せる。

 

「…俺、靴のことで仕事場でからかわれてたんです」

「え・・・」

「お金がほしいから、結構裕福なところの雑用みたいなことしてるんですけど、そこの息子とかが結構言ってきたりしてたんです。

姉ちゃんは多分それを知って、これを買ってくれたんだと思います」

「そんなことが…」

「だから遙さんのせいじゃんくて俺のせいですよ。怒ってやりたかったけど、怒れませんでした」

 

へへと笑う大地。遙もつられて笑った。

 

「ソラちゃんてばいい弟をもったな〜」

「やめてくださいよー」

「ありがとう。」

「いや…」

「じゃあ、帰るね。何かあったら呼んでね」

「大丈夫ですよ」

「ソラちゃんの大丈夫はあてにならないからな〜。大地君はどうかなー」

「だーいじょうぶですって」

「あははっ。じゃあまたねー」

 

 

「…ああ、きょうだいっていいな」

 

独り言を言いつつ、遙は来夜の店へ帰った。

 

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一言:こんなきょうだいっていいな。

自分のためだと知ったら怒るに怒れない。

次は出会い回想のはずが…。それは当分先になりそうな予感^^;