メイギカ 第2章 第34話 〜医者を探しに王都へ〜

 

「つ、ついた」

 

王都に着いた遙は、さらに街を駆け抜けた。

目的地では夜中だというのに露店がにぎわいを見せていた。

 

「ミズさん!」

「うぇ?…ああ、遙じゃないか。昨日ぶり?いやおとといぶりかな?
どうしたんだよそんな急いで」

「み、ミズさん。お願いがあるんです、お医者さんがいるところを教えてくれませんか」

「医者?…秘密のお医者さん?悪いけどそれは」

「ふつうのお医者さんでもいいんです!」

「ああ、それなら貴族の住区域にいるよ。南の方だ」

「ありがとうミズさん!」

 

遙はお礼もそこそこに駈け出して行った。

ぽかんと見送るミズは苦笑しながらつぶやく。

 

「頑張れよ、遙。…お友達も」

 

 

 

貴族の住区域へと向かった遙は、まばらな人通りの中を駆け回り、人を捕まえては尋ねようとする。

しかし誰も相手にしてもらえず、貴族の従者に追い払われたりして途方に暮れていた。

 

「あのっ!お医者さんがどこにいるか…」

「うるさい小娘。じゃまだ」

「きゃっ」

 

突き飛ばされしりもちをついた遙はふらふらと立ち上がり歩き出した。

 

どうしよう、お医者さんが見つからない!

 

「ないか」のことはわからないというジンや来夜。
お医者さんは「ないか」のことを知っているらしい。

だからお医者さんならどうにか天空を助けられるかもしれないと王都まで飛ばしてきたものの、早くもつまづいてしまった。

お金は持っている。来夜の店で働いたお金はまだかなり残っているはずだ。

遙は当然、自分の持っているお金じゃ治療費の半分にも満たないということは、わかっていなかった。
貴族相手の医者がどんな値段を吹っかけてくるか知る由もないからだ。

ただ医者ならなおしてくれる。そう信じてここまでやって来たのだった。

 

そんな彼女の眼の前には荘厳な雰囲気の教会が立っていた。

遙はすがるような思いで建物へ駆け寄る。
しかし、門は固く閉ざされびくともしなかった。

がしゃがしゃと音を立ててひとしきり開門を試みるが、開くことはなかった。

落胆して踵をかえす。

その時。

 

「どうなされたのです」

「!!」

 

振り向くと、黒い服を着たシスターが立っていた。

あたりが暗いせいで表情は読めない。

急に話しかけられたことで慌てふためいてしまった遙はなんだか悪いことをしてしまった気になり縮こまった。

 

「あの、えと、私」

「こんな夜更けに若い娘が出歩くものではありませんよ」

「うっ…ハイ」

 

素直にうなずいてから、目的を思い出してシスターのもとへ向かう。
シスターは遙より少し年上に見えた。

 

「あのっシスター」

「はい?」

「お医者さんのいるところ、知りませんか!?」

「お医者様…?」

「友達が病気なんです!「ないか」じゃないと治せないって…教えてください!」

 

シスターは黙って彼女を見た。
その瞳が驚きに揺れている。

(なんなの…この子。)

精霊教のシスターとして、普通の魔人より精霊に近付いている彼女には、精霊の気配がより敏感に感じられるようになっている。

(この精霊の気配…)

 

「ご案内致します」

「え。いいんですか」

「はい」

 

シスターに連れられてやってきた建物は、貴族のお屋敷のようにやたら広かった。
門から玄関までがずいぶん遠い。

 

門まで案内してくれたシスターは、「幸運を」と小さく祈りをささげるとすぐいなくなってしまった。

仕方なくひとりで広い敷地を歩き、玄関の前に立つ。

コンコン

ノックしてみる。

 

「誰もいないのかな?」

 

コンコン!

先ほどより強く叩いた。

 

「はーい?」

 

ガチャ

誰かの声とともにドアが開く。

 

「あら。どなた?ていうか何かご用?」

「わ、私遙っていいます!お医者さんに会いに…」

 

出てきたのは女性だった。
随分変な形の白い服を着ている。と思うが、遙が知らないだけでただのナース服である。

出迎えた清純派ナースは柔らかく、しかし少し残念そうに微笑みを浮かべ言った。

 

「ごめんなさいね、今日の診療は終わってしまったの」

「え?」

「今は片づけをしてるのよ」

「ええっ…」

 

そんな彼女の視界に、でっぷり太ったおじさんが映った。
白衣を脱いでいる。

遙はナースの制止も聞かずドアから身を乗り出し、そのおじさんに話しかけた。

 

「お医者さん?…お医者様ですよね!?お願いがあるんです、友達を助けてほしいんです」

「あ?何を言ってる。今日の診療は終わりだ。帰れ帰れ」

「お願いしますっ!お金は払います、早くしないとソラちゃんが…っ」

「ロクラ君、追い返したまえ。私はもう休ませてもらうよ」

「お医者様っ!」

 

すがる遙を尻目に、医者はさっさと奥の扉から出て行った。

 

「残念だけど、あきらめてお帰りなさいな」

「そんな…」

 

ナースは優しく遙の肩に手を置き、慰めるようにぽんぽんと叩いた。
そのまま体の向きを変えさせられ、ドアの外に出される。

呆然とする遙をそのままにし、ドアは重たい音をたてて閉じられた。
鍵をかける音を響かせて。

 

「…」

 

ぼんやりしたまま、とぼとぼと門へ向かう。

なにもできなかった。

今この瞬間も、天空は苦しんでいる。

いやもしかしたら、もう――

 

いやな考えを振り払うように頭を振る。

しかし考えないようにしようとすればするほど、湧き上がってくる思いを抑えることが難しくて、彼女はそのまま座り込んだ。

 

ソラちゃん。

いやだ

死んじゃやだ

 

「ソラちゃん…!!」

 

 

 

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一言:次こそ回想シーンでしょう。