メイギカ 第2章 第33話 〜天空、危篤〜
「ソラちゃん…!」
助けられないの?
どうしようもないの?
遙と天空は家が近く同い年ということだけでなく、気もあってすぐ仲良くなった。
出会いは買出し先の市場。
その日は月に一度だけ行われる、いつもの市場より規模も品数も大きい、通称大入り市の日だった。
遙は来夜に言われて市場に来たが、目的のものが見つからなくてさまよっていたところだった。
対する天空はいつもは弟一人か二人で来るのだったが、たまたま都合が合わず天空一人で来たときの出来事。
ごった返す人ごみに酔って倒れかけた天空を遙が助けたのだ。
その後回復した天空のおかげで目当ての品も見つかり、帰ることになって天空が来夜の店の近所に住んでいることを知り仲良くなったのだ。
遙にとって天空は初めての”友達”と呼べる存在だった。
非魔人の国に生きた遙は、逃げるように各地を転々としていたため、誰かと仲良くなってもすぐ別れが来てしまう。
また魔人であることから非魔人たちから距離を置かれていた遙は、仲良くなった子でも周りから友人関係であることを隠そうとされる。
そうしようとしない子が現れても、周りから強く言われるところを見て、遙のほうから距離を置くようになるのだ。
でも天空は違う。魔人だからといって周りを気にしなくてもいい。
周りに堂々と友達同士だと言える初めての友達だった。
その友達を救うことができない自分の無力さに、遙は座り込んだまま嗚咽を漏らす。
「何で、ダメなの…。あきらめたくないのに…」
こらえきれない涙がぽろっと零れおちる。
耐えきれなくなった思いが爆発した。
ソラちゃん…!
いや、いやだ!死んじゃ嫌だ!
「いやだぁぁぁ!!」
その女は、座り込んで慟哭する少女を遠巻きに見ていた。
先ほど会ったときの感覚。
そして今、泣き崩れている彼女の周りには、自然に起こったとは思えないほどの強い風。
少女を中心として巻きあがる強い風は、辺りの木々を大きく揺らし葉を散らした。
「ふぅん…?」
女は細い顎に手をかけ、思案顔でしばらく様子を見ていたが、視線の先の突風はますます勢いを増すばかりだった。
その中心にいる本人は全く意に介していない、というか周りの状況がわかっていないようだが。
「まったく。…仕方ないわね」
女はそう言って吹き荒れる風の中心へと歩み寄った。
「ちょっと」
「ふぇっ…うっ、く。…ぇ?」
ぼろぼろと泣いていた遙は急にかけられた声に驚いて顔を上げた。
そこには、長い髪を風にあおられた女性が彼女を見下ろしていた。
金色の長いウエーブヘアに黒いロングコート。手には大きなかばんを持っている。不思議な雰囲気の美女だった。
「道の真ん中で泣きわめかないでくれない。迷惑」
ふっくらと赤い唇で妖艶にほほ笑んだ女性はそう言い放った。
遙は一瞬ぽかんとしたが、自分の位置を確認して真っ赤になるとあたふたと立ち上がる。
「ご、ごめんなさい」
鼻を啜りながら謝る。そのまま道の端までとぼとぼと歩き道を譲った。
「…あの、えっと?」
遙は歩きだそうとしたが、その場を動こうとしない女性を不思議に思い振り返った。
「あなた、理由くらい言いなさい。それによっては助けてあげないでもないわ」
「へ?」
どうも高飛車な言い方をする女性に戸惑いながら、遙はなぜここで泣いていたのか説明させられた。
「友達が…病気で。あ、ぶないかも…しれないんです。だから、治せるかもしれない、お医者さんを…探して。でも、ダメで…それで、」
「わかったわ。私がやる。さっさと連れて行きなさい」
「え・・・?」
思ってもみない申し出に、遙は思わず言葉を失った。
その様子に、女性は苛立ったように眉を吊り上げる。
「治療するって言っているのよ?…その気がないならもう帰るわ」
「あっ!いえ、はい!お、お願いします!ソラちゃんを助けて!」
遙は思わず女性の腕をつかんだ。女性はめんどくさそうに顔をしかめたまま遙の手を振りほどくと、風の魔法を唱える。
「掴んでたら走れないわ。私も、あなたも。…さっさと先導して頂戴」
「あ、はい…」
しゅんと落ち込みかけた遙は今はそんな場合じゃないと自分を奮い立たせると、同じように風魔法を唱える。
「じゃ、いきます!ついて来てください!」
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一言:あんま回想してない。そしてまた新しい人だ…
遅くなりました!