メイギカ 第2章 第36話 〜謎の女性〜

 

遙は後ろからついてくる美女を気にしながら夜道を再び駆け抜けた。

一体彼女は何者なんだろう。

治療すると言っていたが…医者なのだろうか。

 

もうすっかり暗くなった町が見えてきた。

天空は、無事だろうか。

焦る気持ちを抑えて、遙は後ろをちらりと振り返って言った。

 

「あそこに見える町です!急ぎますね!」

「まだ急ぐの…!?」

 

美女は若干へばっているみたいだったが、遙はそれに気づかずスピードをあげた。

遠ざかる少女の後ろ姿を追いながら、美女はやれやれと首を振って脚を速めた。

 

「私は走るのも風魔法もそんなに得意ではないのよ…!」

 

それにしたって早すぎるわ!と口の中でつぶやいた文句は遙に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

「遙!」

 

到着した遙を迎えたのは切羽詰まった表情をした来夜だった。

猛スピードで飛び込んできた遙の体を受け止める。

 

「もう!どこいってたの!心配したんだから…!」

「ご、ごめんなさい!でも、"治療”してくれるって言う人を連れてきたの!」

「治療…」

 

来夜がつぶやくと同時に、美女が到着した。

しばらく肩で息をしながら遙に文句を言った。

 

「呼んでおいて先に行くってどういうことかしら…!もう!」

「あっ、ごめんなさい!」

「それで、患者はどこに?」

「こっちよ。…まさかクラ、あなたが来るとはね」

 

来夜が美女を案内する。亜麻色と金色、ゆるいウエーブのかかった長い髪が、歩くたびにそろって揺れた。

クラと呼ばれた美女は来夜を見て、はっと短く息を吐き出しそっぽを向いた。

 

「あら、あら。まさかあなたがこんなところにいるなんて」

「あの子よ。あたしからもお願いするわ。助けてやってほしいの」

「やめて頂戴。あなたに言われてもやる気をなくすだけだわ」

 

冷たく言い放つクラという美女は長い髪をひるがえし息荒く青い顔で横たわっている天空のもとへ向かう。
天空にはまだジンが力を送ってくれている。大地は眠っているようだ。

遙は来夜を見た。

 

「来夜さん、あの女性とお知合いなんですか」

「ええ、まあね…」

 

微妙な表情で笑う来夜は「まあ、腕は確かだから任せてしまいなさい。あたしは帰るわね」と言って家を出ていってしまった。

遙は何も言えず来夜を見送った。

クラは天空の傍で力を送っているジンをみて、驚いた声を上げた。

 

「仁様…!!このような場所で何を」

「クラ殿…。いえ、彼女は俺の患者の一人です。もう俺の手には負えない状況で…あなたが来てくれて助かった。どうかお願いします」

「はい、もちろんですわ。お手伝いしてくださる?」

「ええ」

 

ジンとも知り合いらしい。初めは驚いていたが、来夜への態度とは違いすぐほほ笑みを浮かべた。

さすがの遙も気になって尋ねた。

 

「あの、皆さんお知合いなんですか?」

「…」

「クラ殿は耀師の妹さんだ」

「ええっ!」

「仁様、それ以上はやめてくださいませ。…私は耀久羅(よう くら)。確かにあの女の妹ということになるけれど、今は縁を切っているわ」

 

淡々と自己紹介をしながらも、あの大きなかばんからいろいろ取り出して準備をしている。
遙が見てもわけがわからない道具の数々。

 

「今は漉羅(ろくら)と名乗っているの。あなたも、余計な詮索は無用よ」

 

久羅は視線を投げるとそう言い、長い髪を結え、かばんから取り出した白衣をきて手袋をはめた。
遙は思わずあっと声を上げた。先ほどの清純派ナースがそこにはいた。

「では…始めます」

 

久羅の凛とした声で、治療が始められた。

 

第37話へ

2章目次へ

ランキング(NEWVEL投票ランキング)
気に入っていただけた方、クリックお願いします♪
(ひと月ごとリセット)

 

一言:耀師の妹でした。姉妹そろって美人です。