メイギカ 第3章 第38話 〜男たちの”仕事”〜

 

目をこらさないと奥まで見渡すことのできないほど薄暗い室内。

ところどころくもの巣が張ったその部屋には、埃の積もった瓶の立ち並ぶ棚、薄汚れたテーブル、割れたライト。

どうやら元はバーのような店だったようだが、今は店主の姿も見えない。

 

ただ、光の届かない奥のほうの席には何人かの男たちが座っていた。
揃って辛気臭い顔つき。薄暗さもあいまってより物々しい雰囲気を漂わせている。

 

「今日でここは引き払う。次はレンヒだ」

口火を切ったのはカウンターに体を預け立っていた大柄な男だ。
この男だけは一人、この薄汚い室内に不釣り合いな上等なコートに身を包み、余裕の表情でその場の面々を見下ろしていた。

「…これで終わりなんだろうな」

少しの沈黙の後、大柄な男に鋭い視線を投げかけ答えた男は、目を覆いたくなるほどぼろぼろの容姿になっていた。
全身の半分は包帯を巻かれ、少し見える肌にはやけどの跡。
包帯男が杖で体を起こそうとすると、周りにいた男たちが手を貸した。

椅子に座りなおした包帯男は改めて大柄な男に問いかける。

「レンヒはグラスウォールとの境に近い町だ。ということは、レンヒの後は俺たちの役目を解くんだろうな!?」

少し語気を強めて言った包帯男の言葉と、周りの男たちの無言の視線が大柄な男に突き刺さる。

「…まぁ、そうだな。本当ならリテリウムがよかったんだが…」

男はそう言葉を切ってその場の全員を見回すと肩をすくめて笑った。

「クク。そんな有様じゃな。頼むのも忍びないんでね」

「なんだときっさま!」

負傷しているのか、左腕をぶら下げたままの男が残った右手でナイフを握り威嚇した。

「おっと。まだ元気そうじゃないか。じゃあやっぱりリテリウムにしとくか?」

「…」

男は睨みながらも悔しそうに右手をおろした。
大柄な男は嘲笑を浮かべ、負傷者だらけの男たちに指示を下す。

 

「レンヒだ。ここのようになりたくなけりゃ急ぐんだな。数は20。それが終わったらまた指示を出す。勝手に出るなよ」

「お、おい。俺らはこんな状態なんだぞ。20なんて無茶だ」

包帯男を支える男が言う。大柄な男は片眉をあげ、しばらく黙ったのち不機嫌そうに「じゃぁ15だ」と言った。

「ちゃんと質のいいやつを頼むぞ。悪かったら20に戻すからな」

「…」

「あと、これは今までと同じだが。つかまったら余計なことはしゃべるなよ。まぁその前に殺しに行くがな」

「…」

大柄な男の言葉に、何を思い出したか負傷者たちは顔を青くした。

「引き渡し方法も同じだ。連絡を怠るなよ」

「…」

「何か質問は?」

「…」

「…じゃぁ俺は帰る」

「ちょ、ちょっと待て。…質問がある」

あわてて声をかけたのは包帯男だった。

「なんだ」

「だ、大丈夫なんだろうな。レンヒも警戒が厳しくなってたりしないだろうな」

「俺の情報にはその話は上がってきていない。セル・セイル、ワンノゥエイトと来て、次はリテリウムと言われて王都は警備が強化されたらしいがな」

「そ。そうか…」

「質問はそれだけか?」

「い、いや…。さっきも聞いたがもうこの仕事は終わりなんだな?」

「…まぁ。そろそろ必要な分はそろってきたからな。あと15揃えればこの仕事は終わりだ」

その言葉に、男たちの間に安堵の空気が流れた。

「報酬もちゃんとくれるんだろうな?」

「ちゃんと質のいいのをあと15、揃えたらな。ちんぴらども」

「…」

黙った男たちに、冷たく視線を投げかける。

「…明日の朝出発する。荷物をまとめとけ」

 

大柄な男はそう言い捨てて出て言った。

 

足早に歩き去る男の口もとは、くっきりと笑みの形にゆがんでいた。

 

「ククク…。お前たちには、最後の最期まで役に立ってもらう」

 

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一言:謎。彼が集めているのはなんだ。そんで何に使っているんだ。