#15 いろんな人と仲良くしようよ

俺が部屋に戻ると、コタローがベッドに転がってテレビを見ていた。

「よー。おかえり」

「ただいまー。まだメシまだだよな?」

「おう」

「じゃ悪いけどちゃっちゃかシャワー浴びるからちょっと待ってて」

「はいよー」

コタローに断ってからシャワーを浴びに行く。
巻いているものもすべて取るとようやく一息つける。
さすがに一日中つけてると思っているより苦しい。


さっと体の汗を落として、すっきりした俺は、少し悩んだ末にさらしは巻かずにノンワイヤーのブラだけ付けて上にぶかぶかのトレーナーとスウェットを着て出た。

「あー腹減った。お待たせコタロー」

「おう。髪はいいのか?」

「うん。タオル肩にかけとく。そういうやつ昨日結構いたし」

「まーそうだな。じゃ行くか」

鏡で確認する。若干胸が盛り上がっている気もするが、タオルかければ何ら不自然でもない。
背中丸めれば何にもないように見えるし…ムキムキの筋肉だるまならこれくらい盛り上がってるだろ。
…自分で思って悲しくなってきた。俺の胸は
筋肉だるまと同レベルか。

「どーしたんだよ。早く行くぞ」

「おう」

歩きながらコタローに今日のことを報告した。

「へえー。マネージャーね。…まあ、頑張れよ」

「うん」

「あんまり無謀なことするなよ?俺フォローできないし」

「大丈夫。気をつけるから!ありがとコタロー!」

俺はご機嫌でコタローの背中をばしばし叩いた。


食堂はなかなか空いて来ていた。
俺とコタローは適当に席をとるかとあたりを見回す。

「あ」

「ん?」

声を上げた俺の視線の先には湊君がいた。
コタローもそれに気づく。
湊君は今来たらしく、盆を置いて食べ始めようとしているところだ。

「湊君」

「ああ、中條」

俺が近寄って声をかけると、いつものようにクールに返された。

「ねー一緒に食べようよ」

と言いながらコタローに合図する。
コタローはなんだか複雑な微笑を見せながらこちらに来た。

「いいのか?」

「…別にいいけど」

結構無理やりだったのかもしれないが、とりあえず了解を得た俺たちは湊君の正面に席をとり、今日のメニューのハンバーグを取りに行った。


「いただきまーす!」

「いただきます」

「…」

俺たちは黙々と食べた。

うーん。何か話題はないかな。
せっかく同じクラスなんだし。

「もうクラスの人とか覚えた?」

「いーや全然。知らないやつばっかり」

「いや」

「…だよね!まだ1週間もたってないのに無理だよな!」

会話終了…
俺はコタローを見て視線でアピールした。
コタローはあきれたような表情を見せたが小さく頷き、口を開いた。

「…えーっと。湊ってバスケ推薦なんだろ?確か地区の選抜にも選ばれてたらしいじゃん」

あっコタローズルい。俺ですらまだ湊君って呼んでるのに。
湊君はたいして気にしたふうもなく、かといってフレンドリーでもなく一言だけ返事した。

「ああ、まあな」

「もうバスケ部には入ったんだろ?」

がんばれコタロー!

「ああ、まあな」

ああ。ああ。さっきと同じだよ!
まるで最初の俺との会話だよ!
コタローはひるみつつもがんばっている。

「そ、そうか…こいつもバスケ部入部したらしいから、面倒見てやってくれ」

「おいコタロー。聞き捨てならないぞ。面倒見るのは俺のほうだから!」

「こんなこと言ってるけど不安で…」

コタローはできの悪い弟をよろしくと言わんばかりに苦笑いを湊君に向けながら、あいた手で俺のまだ湿っている頭をわしわしとなでまわす。俺はブスッとしながらもされるがままでいた。
湊君は一瞬目を細めたものの相変わらずの無表情でしばらく俺たちを見ていた。
なんか照れちゃうぜ…
俺が落ち着きなく視線をさまよわせていると、湊君は納得したというように小さく息をついて頷いた。


「ああ。確かに…」

「え!?確かにって、確かにってえぇ!?

「わかってくれたか」

俺が悲痛な声を上げると、コタローは満足げに笑った。
湊君はそんな俺たちをちらと見ると、スッと俺のほうに長い腕を伸ばした。


「??」

俺の顎に指先が触れたと思ったら、湊君の親指が俺の下唇すれすれをかすめた。

相変わらず興味なさそうな無表情の湊君は、すぐ指を離すと、俺らに向かって指を見せた。

デミグラスソース。

「…ついてた」

「あああ、ありがと…」

湊君はそのまま、その指をぺろりと舐めて立ち上がる。

おおっ!

うひゃ!

ええっ!?

思わずコタローを見ると、なんだか険のある表情で湊君を見ていた。
や、違うよコタロー!湊君は
アッチのある人じゃないから!
ただ取ってくれただけ…そう。俺も何考えてんだ。
親切だよ。しんせつ。いい響きだね、しんせつ。

俺があわててる間に、湊君は小さくごちそうさまと言いながらお盆を持って立ち去ってしまった。

コタローは相変わらずの表情で見送っている。

「こ、コタロー。そんな怖い顔してんなよ。大丈夫湊君ノンケだよ絶対そうだって!」

「怖い顔してなんかねーよ、お前何アホなこと…。あー。…わかったわかった。そうだな」

コタローは苦笑いを浮かべ、また俺の頭をかきまわすと立ち上がった。

「ほら、もう食い終わったんだから早く部屋戻るぞ」


コタローに連れられて、まだ何かあわてている俺は部屋に戻った。
湊君のただの親切にドキッ☆としたので、部屋で乙女丸出しにきゃいきゃい騒いでいたらコタローに怒られた…


次の日。
今はいたって通常に戻った俺は、いつものように小滝としゃべり、国仲に早速写真を撮られ、湊君に話しかけてみるもののやっぱりクールな対応をされ、苦笑いを浮かべたりなんだりして過ごした。

さすがに授業も先生の紹介シーズンは終わってまじめに始まっている。
俺はまじめに受け、コタローもまじめに受け、小滝は当てられないように縮こまっていて、
湊君は結構よそ見している。瀬戸は俺の後ろのせいで何してるかは分からないが、子分と話しているのがたまに聞こえる。国仲は…まあいいや。

早くほかのクラスメートも覚えなきゃな。

お昼になって、学食に行ってみようという話になったので、小滝とコタローと3人でカフェテリア近くにある学食にむかった。
湊君も呼びたかった彼は授業が終わったらさっさと出て行ってしまったのでかなわなかった。

「俺定食Aにしよ」

それぞれ食べたい物を決め、俺は桜川じーさんからもらった小遣いで豪華な定食を頼んだ。
空いている席に腰掛け食べ始めた。

「て言うか小滝ビビりすぎだから!当てられたくないからってさー」

「うわっ。みてたなんてひどいよ!数学は自信ないだけ!」

「やー。ごめんごめん」

そんなことを話しながら箸を進めていると、茶髪の先輩が寄ってきた。

「よ、琉衣」

「ああ、大江先輩」

話しかけてきたのは大江先輩だった。
先輩はにっと笑って俺の座っている席の机の空いた場所に腰掛けた。

「先輩も学食ですか?」

「まーな。もう食べ終わったんだけど琉衣がいたもんだから」

先輩はそう言いながら俺の頭をもさもさといじる。

「ああ、みんなして俺の頭をぐしゃぐしゃにしないでください」

俺は頭を振ると先輩の手をぺしぺしと叩いて講義した。

「みんな?」

「コタローとか。先輩も。あと…」

誰かにも頭くしゃくしゃにされた気がしたんだけど思いだせなかったのでやめた。
俺が曖昧に笑うと、先輩はさっきよりも強くくしゃくしゃとかき回す。
そうしながら先輩は笑いながら俺の目線を覗き込んだ。

「琉衣の髪はふわふわしてて触りたくなるんだよ」

「それは、ありがとうございます」

褒められてうれしかったのでニタッと笑ってお礼を言う。
ふっとコタローを見るとあきれたような微妙な視線でこっちを見ていたので、先輩から頭を離して別の話題を振った。

「先輩今日は部活来るんですよね?」

「ああ、軽音は当分お休みかな。ライブの前以外に軽音ばっか行くとバスケ部の連中がい顔しないし」

「まあ、そうでしょうね…」

「だろ、それに琉衣も入ってきてくれたし。マネなんだろ、ちゃーんと面倒見てくれよ」

先輩は俺に向かってウィンクした。先輩は美形だからそういう表情も様になるけど…

…俺、女ってばれてないよね?ただ気に入ってくれてるだけだよね?

俺が内心そう思いながらあいまいな笑顔を向けていると、入口のほうから先輩を呼ぶ声がした。


「弘夢…」

男性にしては高めの声に先輩が振り返る。
俺も先輩越しに声の主を見てみた。

「恭平」

恭平と呼ばれた人はつかつかとこちらにやってくる。
すごく綺麗な男の人だ。身長は俺と同じくらい。白く小さな顔。長めの前髪からのぞく、少しつりあがったくっきり二重の瞳。小さな赤い唇。中性的、という表現がぴったりくる。

その人は大江先輩の前まで来ると、先輩の周りにいる俺らをちらりと眺めた。
俺と目が合う。

恭平さんは俺を見て一瞬片方の眉だけピクリと上げた。
俺はビビる。
しかしそのまま、恭平さんは目を細めて微笑んだ。
つややかな赤い唇。

「君、名前なんて言うの」

「えっ?えーと、中條琉衣です」

俺が答えると恭平さんは満足そうに笑みを深くして他のみんなにも視線を向けた。

「そっか、みんな1年生?弘夢の後輩?」

「…みんな1年だけど後輩は琉衣だけだ」

なんだか恭平さんの雰囲気にのまれて何も言えずにいるコタローや小滝の代わりに、大江先輩が答えた。

「そう、君たちの名前は?」

「桜川虎太郎です…」

「こ、小滝総太です」

「ふうん。僕は2年の布施恭平。よろしくね」

恭平さんはふーわりと微笑んだ。


その後大江先輩も恭平さんに連れていかれ、3人に戻った俺たちは、それぞれ感想を言い合った。

「なんか、すんごくオーラのある人だったね」

「うん。すごく綺麗な人だったね」

「男に見えない。…女にも見えないけど」

「確かに」

もういなくなった二人の出ていった扉を眺め、俺たちはしみじみと頷きあった。

 

次(登場人物紹介へ)  

目次

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

この先は、#何番という進め方ではなく、出来事や行事ごとに書いていこうと思います!

時系列がめちゃめちゃになることもあるかもしれませんが、できる限り自然になるように頑張ります。

登場人物もほぼ出てきましたので。これからも亀更新でがんばります!

管理人