#12 文化部も回ってみようか

次の日からは授業だったが、ほとんど説明ばかりで眠い。そんな一気に先生の名前覚えられない。
今日も部活見学が待っている。

コタローは今日もテニス部に行くといって別れた。
俺はどうしよっかな。バスケ部はなー。またゴリ村に絡まれたら嫌かも。

教室で思案していると、残り少なくなった生徒たちの中に一人でいる生徒を見つけ近寄った。

「やあ」

「え、え?」

「一人で回るの?よかったら俺も一緒でいいかな。相方もう行っちゃって一人なんだよね。
あ、もしもう入部するとこ決まってるなら別にいいけど…」

彼―寮生の、確か小滝といったか。
ちょっとおどおどした少年だった。

「あ、うん。全然決まってないから…いいよ」

「やった!俺、中條琉衣。君は小滝君でしょ」

「うん。あ…でも」

「うん?」

小滝はおどおどと詰まった。

「ぼ、僕運動部は無理だから文化部ばっかり回るけど」

「ああ、全然いい。俺文化部見たいと思ってたとこ」

小滝はほっとした様子を見せた。俺はニッと笑って彼を促した。

「さー行こうぜ!どこ行く?」

「あ、うん。どこでもいいよ?」

「えー?昨日回ったところとかあるでしょ?いいの?」

「あ…うん…だ、大丈夫」

「まま、俺に合わせることないぜ?まだ文化部はどこも回ってないんだし」

「や、でも…」

「いーのーいーの。昨日はどこ回ったの?」

「えーっと。ここまで」

小滝はパンフを指差した。俺はうなずく。
これ以上押し問答をするのも面倒。

「じゃあこの5番目から行くよ。いい?昨日行ったとこでまた行きたいところとか」

「大丈夫。まずは全部回ろうと思ってたから」

おお。はっきり言えることもあるじゃないかい。
俺に合わせることないのに。
まあとりあえず文化部のリスト5番目…うげ

「じゃ、じゃぁ新聞部に向かおうか!」

心なしか固くなった俺の表情に、小滝は不思議そうな顔をした。
…何も聞かないでくれ。

 

「しつれーします…」

「失礼します…」

そーっと入った俺たちは、
「受付」と書かれたプレートが乗ったテーブルに座る、見覚えのありまくる二人組に出迎えられた。

ああああ!中條君!

「来てくれたんだねっ!」

「うーわ…」

思わずため息。
小滝がまたも不思議そうな顔をしている。
新聞部のほかの先輩方も不思議そうにしている。

新田先輩はいつも持ってるメモに挟んでいた紙を他の知らない先輩に渡した。
その人は折りたたまれてたそれを開いて中を読んでいる。

「なるほど。お前らの次の記事か」

「です。次の1面は俺たちのもんです!」

新田先輩はなんだか自信ありげにいいきる。
知らない先輩は俺をじろじろ眺めて重々しくうなずいた。

「今回は負けそうだな…」

なんか泣きそうだけど。

新聞部の見学メニューは、今までの新聞のバックナンバー読み放題、新聞づくりの会議?を見学できるものだった。
まぁ30分でできることなんてそれぐらいだな。

『入学式間近!注目新入生徹底調査』

俺の持っている最近の新聞にはそんな見出しが。
なんか新聞というより週刊誌って感じ。

中身を見てみる。

『桜川虎太郎』

おお。コタロー載ってる。なになに…

―ご存じ桜川理事長の孫息子。双子の姉がいる。中学時代はテニス部キャプテンで、実力も高い。
中学寮長組合にも所属。さわやかなイケメンで隠れた人気を誇るが、現在彼女なし。身長172センチ。

彼女なしって…言い切ってるけど。やっぱりインタビューされたのかなぁ。

そう思いつつも読み進める。
10人程度載っているみたい。大体は大会やコンクールで優勝経験があるだとか、実は芸能人の息子だとかいう生徒たちだ。

「おっ」

思わず声をあげてしまった。

『有村聖人』

ゴリ村も載ってるのか。意外にすげえなあいつ。

―全国選抜チームの不動のセンター。父親は陸上競技で有名な某有村氏。
兄と妹がいる。同じくバスケ推薦の湊とは不仲らしい。彼女なし。身長190センチ、体重98キロ。

なぜか体重載ってんぞ。しかも某有村氏て何だ。プライバシー守れてんのか?
…やっぱり彼女いないんだ。
しかも湊君と仲悪いんだー。まァ仲良さそうには見えなかったけど。
でもどちらかというと勝手にゴリ村がライバル視してるだけぽいな。

『湊飛鳥』

ゴリ村が載ってるなら当然のってるはずだ。

―有村と同じ、選抜メンバーとして名を轟かせたバスケプレイヤー。
そのルックスで、他校の女子のファンクラブがあったそうだ。姉がいる。彼女はいないぽい。身長175センチ。

彼女はいないぽい。…あいまいな言い方しやがって。
あーでもさすが湊君。ファンクラブあったんだ。俺も一応他校の女子なんだけどその存在知らなかったぜ。


もう、知ってる名前はないみたいだな。
ちょうどいい感じに時間まであと少しだ。

読み終わった俺は小滝の傍まで行って見学した。
新聞部の面々は次の新聞の内容について議論してるらしい。

「…分かった。それでは次回発行の皆星きらり新聞の1面はどの記事にするか、挙手で決めたいと思う」

…皆星きらり新聞っていうんだったんだ。

「では、吉田と田中の新入生ピックアップ、笹野と関のテレビ出演依頼に関する記事、高崎の佐藤太郎氏へのインタビュー、新田と黒澤の最注目新入生特集…この中から選びたいと思う。では諸君、最後に答弁してくれ」

俺は佐藤太郎氏インタビューがいいな。
っていうかまじめな記事はないのかい?そういうもの?
さっき見た新聞にはテスト予想とか学食のメニュー変更とか、大会優勝した選手インタビューとかまだ学校新聞ぽいのもあったんだけど。

「俺たちの新入生ピックアップは、先月号に出した注目新入生の実際を追っている。以前よりずっと詳しい生インタビューも載せている。
母親人気も上々のはずだ」

え…。母親?
もしかして、読者って生徒よりも母親が多いのかな。
あー。まぁ男子高生が男子生徒を見てもたぶん楽しくないもんなー。せいぜいお前載ってんぞとか言われてからかわれるぐらいだろう。

「それに今月号は毎年外部にも配布している。俺たちの存在がでていけるチャンスなのだからより多くの生徒を紹介するべきと判断する」

そう言ってたぶん吉田先輩だか田中先輩だかは新田先輩たちを見た。
バトってるな。1面を賭けたバトルか。

「俺たちはテレビ出演依頼に関する記事だ。実は某テレビ局から男子校の実際っていう内容で取材させてくれないかっていう依頼が来てる。この内容なら生徒たちも気になるだろうし外部にも告知ができるはずだ」

ほう。なるほど。内も外も喜ぶとな。

「俺の記事は人気イケメン俳優佐藤太郎氏のインタビューだ。女性人気も高いし、…まぁ、うん」

この人は別に一面を狙っているわけでもないみたい。がんばってよ!!

「俺らは最注目新入生特集だ。先月号で先輩が見落としていた新入生に密着取材した」

ギク。

「入学式時、受付のおばちゃんも一番だと太鼓判を押すぐらいの美少年だ。一面に載せても遜色ないビジュアルをお約束する」

「まあ本人が来てくれているからその目で確かめて決めてくれ」

と言って黒沢先輩は俺を指差した。
その部屋にいる全員が一斉にこっちを見る。
俺はビビったが、にこーっと笑って見せた。
新聞部の先輩たちは俺をじっくり眺め、しかめっ面で重々しく頷いた。

「では評決を取りたいと思う。ぜひ新入生の諸君も1票を投じてくれ」

 

 

…ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

「では、僅差ではあったが黒沢新田の記事を次の1面にしようと思う。
二人の記事は先月号に載っていないという点でも興味深い。また…」

部長らしき人物は俺をちらりと見た。

「確かに、新たなわが校のアイドルプッシュとしてとてもいいと思った」

なんじゃそれは!

「えーっと。中條君だったかな?」

「えぇ…ハイ…」

「ぜひともわが校のアイドルとして頑張ってほしい。
そして願わくば、
ぜひ、ぜひ! 新聞部に入部をぉぉぉ!

部長さんは俺の手を ぎゅむっ と握るとぶんぶんとふった。
俺は苦笑いをした。

よく考えてみれば、他の記事だって1面じゃないだけで載るんだよねぇ。
泣いている部員さんと、うれし泣きでかたい抱擁を交わす黒沢、新田両先輩を見て思った。

 

「な、中條君すごかったね」

「俺はサトタロのインタビューがよかったのに!!!」

「サトタロファンなんだ…」

「そーだよ★」

「でも、おめでとう…」

「いや、別にうれしくない」

「そ、そうなの?」

小滝は意外といった表情をした。
意外でも何でもないじゃん。めんどくさい。
そういうと、そうなんだ…と神妙な顔で返された。まぁ、注目には慣れてるけど?ちょっと得意になってしまいそうだぜ。

「まぁ、決まったもんはどうしようもねぇ」

「うん、どんな記事か楽しみだな」

はぁ。ため息をつきつつも次の文化部へ。

 

「次は軽音部だね」

「軽音かー」


スタジオに行くと、ギターやベースの音が聞こえてきた。
うーん。ドラムの音がいいね!ノって来そうだよ!

「ようこそ新入生!」

マイク片手にそう言ってギターをかき鳴らしたのは、ビジュアル系のイケメンだった。
ロン毛に化粧。すげえ。はじめて見た。

「でーは、一曲」

ドラマーが叩く。

今はやりのGOOOOLDのヒット曲だった。


「ただ泣いて笑って過ごす君に…」

ギター兼ボーカル、歌はなかなかうまい。
ただたまに明らかにギターをとちっている。


演奏が終わった。

拍手。

この後はバンドを体験できるらしい。やりたい楽器は貸してくれるそうだ。
俺はどうしよう。ギターもベースもドラムもできない。
小滝君も同じ気持ちだったらしく、不安そうな目を向けてくる。
新入生の中にはマイ楽器を持ってきている人もいた。やる気あるなぁ!

と思って見ていたらそいつと目があった。

「あ」

「やあ…」

確か瀬戸とか言ったチャラ男だ。
向こうもこっちも若干の気まずさを持ってそれっきり会話が続かない。
子分は周りに見たらなかった。

「それ自分の?弾けるんだ?」

「まーな。お前何やるんだ?」

おお。まさか聞いてくるとは思わなかった。結構いいやつじゃん。

「やー俺、楽器と言えばリコーダーかピアニカかカスタネットぐらいしか…」

「ククっ。ボーカルでもやれば?」

「うたかー。」

俺、地声は結構低めだけど歌うと高いんだよな。
初めて一緒にカラオケに行く人には絶対驚かれる。

「小滝君はどーする?」

「え…僕、見てるよ。中條君、歌ってきなよ」

「や、俺も遠慮…」

「やらねーの?」

「おう、俺は遠慮…」

「へぇー。実は音痴だとか?」

瀬戸がニヤニヤして聞いてくる。
うわ!こいつ腹立つわ。いい人と思った俺がアフォだった!

「音痴じゃねーよ」

ブスッとして言う。
これでも昔は慶兄にアイドルデビューさせられようとしてたぐらいだ。
俺があまりにも女の子らしくなくてあきらめたけど。
歌うの好きだし。

ちなみに兄貴は今妹の琉花をアイドルデビューさせようと躍起になっている。

「じゃぁ歌えよ」

「そう来ると思ったぜ」

俺は完全に燃え上がっている。マイクをつかむとビジュアルバンド風に髪をかきあげてみた。
不敵な笑みを瀬戸に向けてやる。

「中條君、ノって来てるね…」

小滝のつぶやきに、もしかして俺、ノせられやすいのかも。と思ったりするが。
今の俺はやる気満々だ!
地声でうたってやれば大丈夫だろ。

リストの中から、今回のメンバー全員が知っているミ●チルの曲をチョイス。

残念ながらビジュアル系バンドが演奏するような曲でなかったので真面目な顔でうたった。
地声で。若干裏を使いつつ。

うん。

なかなかうまく歌えたぞ。

 

「ありがとーございました♪」

オーディエンスににんまりあいさつして小滝のもとへ戻る。

「すごい上手だったよ。歌うまいんだね」

「いやあそれほどでも」

しかし喉が苦しい。低かった。気を使って疲れた…。

「音痴じゃなったな」

瀬戸が言ってくる。

「当たり前!お前ギターうまいんだな。俺素人だけど指さばきがすごく見えたよ」

「当たりめーだ」

なんか褒めあいをして気持ち悪いが、3人で笑った。

そんな俺に誰かが話しかけてくる。

「新入生、お前昨日バスケ部来てただろ」

「え?あ、はい」

振りむくと、入ってきたとき演奏していたビジュアル系の先輩がいた。
なんで俺がバスケ部行ってたって知ってるんだろう。そんなにゴリ村とのバトルの噂回ってるのかな。

ビジュアル系の先輩は俺の横に座り込み、腕を伸ばして俺の頭をぽんと叩いた。
そのままにっと笑って言う。

「俺バスケも掛け持ちしてんだ。まあ練習量でいえば本業はあっちなんだけど。お前昨日でかいやつに吹っ飛ばされてただろ」

先輩はフレンドリーにそう言って頭平気だったか?と俺の頭をかきまわした。
俺はしかめっ面で言う。

「大丈夫じゃなかったですよー。もう頭ぐらぐらしてたんこぶできてました」

「そりゃ災難だったな」

「ホント、変な言いがかりも付けられるし、最悪でしたよ」

「くくっ。あー、俺は大江弘夢。お前は?」

「あ、俺中條琉衣です」

「そーか、よろしく。琉衣はバスケ部はいるのか?」

わあ。初の名前呼び捨て。この人モテそうだなぁ。今は男の俺も不覚にもドキッとしちゃったよ!
バスケ部かー…入りたいけどなぁ。

「悩み中です。入ったら体もたなさそうだし。どんなに頑張ってもゴリラに体当たりされて踏ん張ってられるガタイは手に入りそうにないんで」

俺がそういうと大江先輩は笑った。

「俺はお前みたいなやつが入ってくれたらうれしいけどな」

「マジですか。考えときます」

先輩はそこまで言うとじゃーな、と言って行ってしまった。
瀬戸と小滝が話しかけてくる。

「あの人バスケ部にも入ってるんだね」

「だからダメなんだよ。ギター」

「わわっ。瀬戸君ダメだよ!そんなこと言ったら!」

「だってそうじゃねーか。なー、中條」

瀬戸は俺を呼び捨てて呼ぶのか。じゃあ俺も呼び捨てで。

「まぁ、確かに正直ギターは瀬戸のほうがうまい感じしたけど」

「だろ?」

「で、でも先輩なんだから」


とか話しているうちに30分が経ったらしい。
瀬戸は残るというので、俺と小滝はでることにした。

「じゃーな瀬戸」

「またね瀬戸君」

 

「それじゃあ次は…演劇部だね」

「おう。…なんかやな予感するけど」

連れだって演劇部のホールに行くと、金髪の女性が迎えてくれた。

ようこそぉ☆

よく見なくても男だった。
金髪のオカマは俺たちと目が合うと目をカッと見開き、口と腕をわなわなとふるわせたかと思うと奇声を上げた。

「きゃぁぁ!!みんな!この子たち見て!」

俺たちがその迫力にたじたじとなっている間に、男役女役、制服を着た裏方さんなどがずらっと集まった。

「かわいいわ!この子たちなら完璧に女役が出来るわ!」

「本当だ…!君たち名前は!?クラスは!?電話番号はぁぁぁ!!!?

「うへぇっ!1-Eの中條と小滝ですっ!!」

「中條チャンと小滝チャンね!ちょっと来なさい!」

ズルズルと引きずられる。
他の新入生の姿が見えないけど…。

と思ったら、カーテンで仕切られた楽屋に3人ほど人がいた。
みんないろいろ衣装を着ている。

一人は、金髪のカツラにかぼちゃパンツの王子ルック。
一人は、手作り感全開の兜をかぶった戦国武将。
一人は、白く長ーいおひげをつけたサンタさんの格好。

それぞれ表情にはうつろなものが混じり、なりきりきれてない。

俺たちはそれを見ておののいた。
小滝は泣きそうな顔で俺を見てくる。
俺は悲壮感ただよう表情で頷き返した。

俺たちをカーテンの中に放り込んだ先輩方は奥から何やら衣装を持ってくると、王子と武将とサンタを引っ張り出してにまっと笑った。

「着て出てきてねv」

シャッっとカーテンを閉められる。

俺たちはしばらく呆然として立ち尽くした。
するとまたカーテンが開いて、強面の金髪ギャルが顔をのぞかせる。
ドスの利いた声で言う。

無理やり着替えさせてやるわよ。それでもいいの?

「と!!!とんでもございません!」

俺はそう言って小滝をつついた。
そんなことされたらたまったもんじゃない。何かの拍子にばれたら困る。

「着替えるぞ…」

「えええ…」

俺は適当に選んでもう一方を小滝に渡した。

「あんまこっち見るなよ!」

そういうと俺は奥に行って着替えた。
男に女装させて楽しむとかおかしいだろ。こいつらみんな変態なんじゃねーだろうな。

そう思いながらも着替える。
メイド服じゃねーかこれ!

小滝は大丈夫だろうか。

「小滝君?平気か?」

「な、中條君」

小滝が振り向く。
おおお!

メイドさん。

ものすごく恥ずかしがってる小滝がとってもかわいい。
いやこれ、すごい似合ってるじゃん!

「お前すんごくにあってるぞ」

「やめてよ…中條君のほうがにあうよ」

「小滝君。こういうのはなりきったもん勝ちだ。俺が手本を見せてやる」

て言うか二人ともメイドとか、そんなにメイドさんが好きなのか。
絶対おもしろがってるだろ。

そう思いつつも俺は胸を張って出ていく。
もちろん物を詰めている。

「おおおお!!」

「メイドさーん!」

「カワイイッ!

後ろから小滝ももじもじとして出てくる。
不安と羞恥の色の濃い瞳に向かって、俺は頷いた。

「よーく見てろ。俺の生きざまを…!」

 

おかえりなさいませご主人さま♪

「う…」


うおぉぉぉぉぉぉぉ!!

萌えぇぇぇぇぇぇ!!

 

男どもの咆哮が響いた。ふっ単純な奴らめ。
いつの間にか被害者の新入生3人も一緒に盛り上がっている。何だこいつら。
俺は笑顔を引っ込め、見下したような視線を全員に送ってやる。

「て言うかさー。おめーらマジキモい。あたしが男だって知ってて萌えーとか言ってんの?変態?」

「うわぁぁぁ!!デ…デレツンだぁぁぁぁ!!!」

「うーわ、マジなの?あり得ない!…ほら小滝君も!」

「ま、マジキモい…」

図らずもその言い方が本気で引いてるように聞こえて、俺は爆笑してしまった。

 

ぜひ演劇部にぃィぃ!!」

「うわぁあぁぁ!!」

そして俺らはなぜか追い掛け回されている。
ここの演劇部の部長兼演出家の先輩が必死の状況で入部届けという紙を持って追いかけてくるのであった。
もちろんもう衣装は着替えた。

「こーたーきーくーん!がんばってぇぇぇ!!足動かせぇぇ!!」

「ああ…ぼくもう、だめだぁぁ…!」

へばる小滝を引っ張って逃げる。
やはり日頃から鍛えた足のせいか、演劇部部長はかなり引き離せた。
しかしよく通る声がまだまだ後ろから追ってきている。

「小滝君!あの部屋に入るぞ!」

「〜〜〜」

もう言葉もないらしい小滝をひっぱり、ドアのあいている部屋に入る。
ささっと壁に体をつけ、外の様子をうかがった。

演劇部にぃィぃ!!

部長はそのまま通り過ぎていく。
俺たちははぁーっ…と大きなため息をついた。

「なんだかよくわからないけど、お疲れ様」

と、誰かがお茶を入れてくれる。
差し出されたそれを一気に飲んだ。ふぁー。沁みこむ。

お茶を渡してくれた人にお礼を言った。

「あ、どうもありがとうございました。なんか追い掛け回されちゃって。…って」

「あー…!」

「災難だったね。とりあえずようこそ、生徒会執行部へ」

柔らかくほほ笑む顔には見覚えがあった。

「あー。皆星レンジャーブルー?」

「…遊佐です。間違ってないけど」

寮の歓迎会で青いマスクをしてた人だ。
小滝も覚えがあったらしくぽかんとして見ている。

「楓。新入生か?」

「うん。どうも演劇部に追い掛け回されてたみたい」

奥から低めの声が聞こえる。
振りむくと、背の高い眼鏡をかけた知的なイケメンが立っていた。
変にカリスマがありそうだ。金城先輩とは違う感じのカリスマだけど。

「生徒会へようこそ。俺は生徒会長の秋生坂ワタル(あきおざかわたる)だ」

おお。なんか名前もカリスマっぽい。

「どうも…1-Eの中條です」

「こ、小滝です」

小滝がビビってる。なんかキビしそうだもん。会長。
金城寮長はお祭り騒ぎ好きそうだけど、秋生坂会長はそういうのダメそう。
でも今時こんなまじめを絵にかいたような人、いるもんだなぁ。希少価値高そう…

「残念だが生徒会は新入生見学を行っておらん。執行部と名前は付いているが部活ではないからな。
もし入りたいのであれば5月に役員選考がある」

「あ、そうですか。すみません邪魔しちゃって」

「大丈夫。今特に仕事してたわけじゃないから」

遊佐先輩が優しく言ってくれる。なんか天使みたいな人だ…!

「演劇部、ちょーっと過激な所あるからね。無理やり書かせた入部届けは無効だって何度も言ってるのに…」

「えっ。そんなたくさん被害者が…!?」

小滝が真っ青になってる。
遊佐先輩は肩をすくめて首を振った。

「大丈夫。怪しげな届けが来たら本人確認するから、入部しませんって言ってくれれば無効になるよ」

「ほんとですか!」

「た、助かったぜ…」

救われた気分で目をうるうるさせる俺たちに、遊佐先輩は苦笑した。

 

「疲れたね…」

「ああ…」

優しい遊佐先輩に見送られ、生徒会室を後にした俺たちは、寮に戻った。
辛かった逃避行を乗り切って、微妙な仲間意識の芽生えた俺と小滝は、食堂でパフェを頼む。

「小滝君はどこ入るか決まった?」

「う、うん。ぼくは自然研究部にしようと思ってるよ…」

「へええ。どんなことやるの?」

「うん、天体観測とか、科学実験とかいろいろやってるんだって」

「面白そうじゃん。俺バードウォッチングとかしたいかも」

「うん。きっとできるよ…な、中條君はどこ入るか決まってるの?」

「いやー本当に悩んでるんだよね。あ、俺のことは全然呼び捨てでいいから。
その代わり俺も呼び捨てで呼んでいい?君付けって面倒だし」

俺はにっこりスマイルで聞いてみる。心の中ではとっくに呼び捨てだけど。
小滝は一瞬キョトンとしたが、頷いた。

「あ…うん。いいよ」

「よかった。俺バスケやってたからさ、ここでもやろうかなって思ってたんだけど…
ここレベル高くってさぁ」

「あー。運動部はみんなすごいよね」

「そーそ。だから入りたいんだけどやってける自信がない」

「そうなんだ。なんか意外」

「え?なにが?」

今度は俺がキョトンとする番だった。なんか変なこと言ったっけ?
聞き返された小滝はなぜかしどろもどろになって答える。

「え…なんか中條って、その。むしろ周りがレベル高いほうがやる気出しそうな、イメージが…」

なるほど。
こいつ意外にわかってるな。

「まあいつもならその通りなんだけど、ね」

「え?」

ぼそっとつぶやいた言葉は小滝まで届かなかったようだ。
俺ははぁ〜。とため息をつく。

「そうなんだけどねー。俺は自分の能力の限界を知ってるからなぁ」

「そ、そんな」

「まぁ、もうちょっとじっくり考えてから決めるよ」

 

  

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