#2 桜川じーさんの依頼はきみつ?

 

「る、琉衣子。話があってな」

「んー…?なに?とーさん」

 

私は中條琉衣子。第一中学3年3組14歳。バスケットボール部に所属。と言ってももう引退している。
部活では部長だった。県大会3位入賞の実績。関東じゃ2回戦で負けた。
家族はとーさん、豊にーさん、慶にーさん、私、弟の匠、妹の琉花の6人家族。
かーさんは私が小6の時に亡くなってる。
そんな私を一言で表すといえば、みんな揃ってオトコオンナと言う。
後輩なんかは、私を男より男らしい琉衣先輩vと呼んでくる。

要するに私は男勝りだということだ。
口も結構悪いし。男とけんかしても負けない。(いやそんな暴力女のつもりはないよ?)
女の子にはきわめてやさしい。よくフェミニスト琉衣子と称されるくらい。
まあほかにもいろいろあって、私は昔からそう呼ばれてる。
私のことよくわかってる親友には意外に乙女な部分が残ってるとか言われるけど。

でも私はそういう表現をされるのはむしろ嬉しいと思ってる。友達には変だといわれるけどね。

 

そんな私に、ある依頼が来た。

 

あの日は、夏休みが始まってすぐのころだった。

休日でとーさんは休み、私以外のメンツはそれぞれ出かけていて、私はと言えば寝ていた。

その時、夢うつつで電話のコールを聞き、とーさんがハイ中條ですと言っているのを聞いていた。

朝寝ってなんて気持ちいんだろう。夜寝も捨てがたいけど…むにゃむにゃ。

・・・

そんな気持ちよく寝ていた折、私はとーさんに起こされ、テーブルで珍しくケーキをごちそうになった。
朝からケーキか。ゴージャス極まりない。でも食べる。
貧乏一家の長女として財布を握っている私は何かあるなとふんだ。
でもとーさんがケーキなんて高いもん買ってきて私にご機嫌取りする理由がまったくわからない。

まさか。前楽しみにしてたアニメのビデオ間違えて消したのはとーさんだったの!?
間違えて慶にーさんに当たっちゃったじゃんかっ。

「琉衣子、勘違いするな。俺はビデオなんか録ってない」

とーさんはこういうとき無駄に鋭い。もしかしてジト目で見てたの気付かれた?

「あ、ちがうの?じゃぁなに??」

「ちょっとな…お前の友達に桜川さんて人いたか?」

桜川?ああ、未玲ちゃんか。別の学校の友達だ。部活で仲良くなったっけ。
未玲ちゃん元気かなー?また遊びたいな〜。

「未玲ちゃんて子と友達だけど…」

そういうととーさんは若干ひきつった。自称ダンディが台無しだ。まぁ自称だしいいか。
なんだってんだ。用件は早く言えってーの。

「未玲ちゃんがどーかしたの?もう、さっさと言えよー。とーさん」

「ああ、実はな…さっき桜川さんて人から電話がきてな」

とーさんの言うにはこういう話だった。
その電話をかけてきた桜川さんて言うのが、未玲ちゃんのおじいちゃん。
そのおじいちゃんが私を見込んで頼みたいことがあると。そういう内容だったそうな。
それでとーさんは知らない人から急に娘の話を出されて驚き、私に相談すると言っていったん電話を切った。
ついでにケーキはただ単に昨日職場の人にちょっと貰っただけらしい。ええい紛らわしい。

そして、今にいたる。

「なあ、桜川さんてどんな人か知ってるのか?」

「うん。そのおじいちゃんにもあったことあったと思うよ。一瞬だけど。めちゃお金持ちな感じだった」

「ああ、どっかの有名な学校の理事長もやってるらしい」

「へええ。何で知ってるの?」

「さっき調べた」

やっぱりな〜。とーさん世事に疎いからな。知ってたら赤飯ものだよ。

それにしてもいったい私に頼みごとってなんだろう。お金持ちって何考えてるかわかんないし予想つかないや。
まあでも大丈夫だろう。事前に親にアポ取ってくるぐらいだからそこまで怪しいと思えない。
とーさんはさっきから心配そうに私を見ている。

「大丈夫だよとーさん。とりあえず話聞いてみてから決めるから」

「琉衣子…お前何かやった覚えあるか?」

「あるわけないだろ?いいから連絡とれや」

とーさんは私がなんかへまをやって呼び出されているのかと心配しているらしい。
とーさん心配症だからなぁ。早死にしないように私がしっかりしないとね。
だいたいおじいちゃんに一瞬しか会ってないのになんかやらかせるかよ。
未玲ちゃんとも仲良くやってるはずだし。そんなしょっちゅう会う友達じゃないけど。

私がそうこう考えをめぐらせてる間にとーさんは桜川さんに連絡をとった。
とーさんは電話口でも腰が低い。実際背中丸めててなんだかかわいそうになってくる。
生きろとーさん。そなたは美し…く、ないな!

「ええ、はい…娘のほうはお嬢さんとお知り合いだそうで、ええ、お世話になっております」

オイ。今更お世話になっておりますかよ。
とーさんの背中はうなだれている。ひっぱたいてやろうか。

「ええ?娘のほうに直接?…うー、どうしてですか」

「まあ、それはそうですけど…私は一応保護者として…」

「う…じゃぁ、代わります」

とーさんはなんか自信喪失な表情で私に力なく受話器をよこした。
とーさんの様子が気になりつつも電話に代わる。

「はいもしもし。お電話代わりました」

『キミが琉衣子さんかな!』

うっ。声がでかい。本人は普通にしゃべってるつもりかもだけど!マークつけたくなるくらいでかい。
受話器を耳から少し離し、どうにか応答する。

「ええ。私が琉衣子ですけど。頼みたいことってなんですか?」

私の単刀直入な問いに、桜川さんはハハハと笑った。笑うと余計うっさい。

『ちょっとのぉ。キミに直接聞いてもらいたいのだよ』

「ここじゃ言えない理由は?」

『それは機密だからじゃー』

「きみつ?」

『重要な秘密という意味じゃ』

「ああ、機密ですね」

イントネーションがなんか変でわからなかったよ…。
それにしてもこの爺さん、電話でもいえない用事なのか。機密って政治・軍事的な極秘事項のことだろ?
よくわかんないけど。

「で、その機密とやらを教えてくれるにはどうすれば?」

『わしんとこに来い』

「私あなたのとこなんて知りゃ―せん」

『迎えをやろう。というかもう君の家の前ついとるって』

「それは御親切に。…ってええ!?」

『待っとるぞー。ハハハ!…ブチ』

 

ツーツーツー

 

切れた。くそっ

「なんて言ってたんだ?」

とーさんの心配顔。あんまり心配させちゃいけない。ここは気丈に。

「なんか桜川さんとこにいったら教えてくれるってサ」

「なんだ…でもどうやって行くんだ?」

「迎え…来てくれてるらしいよ」

 

ピンポーン

 

ちょうどいいタイミングでベルが鳴った。
誰だかはわかってる。確実に桜川じーさんの手先だろう。
私はパジャマのまま玄関に出ていった。

「はい」

「中條琉衣子さんですか?」

「ええ。まあ」

「桜川様からお話は?」

「聞きました。行きましょう」

 

「ちょっと待った琉衣子!」

とーさんが玄関に駆け込んでくる。フローリングをすべって止まった。
ナイススライディング。

「だーいじょうぶだってとーさん」

私のセリフを聞き、ふっとため息をついたとーさんは、きっと眼光鋭く桜川じーさんの手下を見た。
おお。なんかかっこいーぞとーさん!イカス!!こういう顔をいつもしてりゃダンディなのに。

「ひとつだけ答えてもらおう。…琉衣子をどうするつもりだ?」

「それは私めにはお答えできません。お嬢様に桜川様自らお話があるでしょう。
ただ約束いたします。私たちはお嬢様に危害を加えるつもりはございません」

「…。そうか。琉衣子、気をつけてな」

「うん」

私は笑って手下について家を出た。

 

  

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