#3 桜川じーさんの依頼

 

車の中。
リムジンだ。リムジンだぁー。と思ったけど顔には出さない。うん私って大人。
でも内心テンションバリ上がり。イエーイ★リムジン乗っちゃったyo!広いyo!手下さんと二人っきりだyo!

き・ま・ず・い・yo!!yeah!

とひとしきり初リムジンの感動を味わった後、特に話しかけてこない手下さんをチラ見しながら考えた。
さっき妙にかっこよかったとーさんは素直に納得していたけど、私は残念ながらひねくれてる。
危害を加えるつもりはないって言ったけど。それって裏を返せば危害がないわけじゃないってことだ。
とりあえず弱みを見せちゃいけない。一家の財布を握ってるのは私なんだから!って関係ねーか。

リムジンはびゅんびゅん飛ばしてあっという間に到着。考え事してたから無駄に早く感じたぜ。

ついたのはこじゃれた邸宅。豪邸とはいかないがお金持ちそうな家だ。
手下さんがドアを開けてくれた。
優雅に下りてみるが、着てるものが安物のパジャマじゃ全くあってない。うーむ残念。

家の扉も手下さんがあけてくれる。

「どうぞ。琉衣子様」

玄関で靴(スニーカー)を脱いで、スリッパを出してもらった。
めっちゃふっかふか。

家の中はおっきなソファとかテレビとか現代の金持ちらしいアイテムが揃っている。
観葉植物もおっきい。庶民の私には何もかも珍しいわ。

案内されるがままに一つの部屋の前まで行く。

 

手下さんが中にいる人物、おそらく桜川じーさんに声をかけた。

「はいれ」

扉を開けてくれた手下さんに促され私は部屋へと踏み込んだ。

やっと桜川じーさんとの対面。

「やあ。朝からすまなかったな。…パジャマのままか」

さすがに必殺パジャマ攻撃にはひきつっているらしい。やったね♪

桜川じーさんは白髪頭にスーツを着て(家の中なのに)、渋いシルバー世代と言ったところだ。
もちょっと格好よく言えばロマンスグレーのおじ(い)様は、私の方へやってきて握手をした。
じーさんは私と同じくらいの背丈だ。この年じゃ小さいか大きいかはわからない。

じーさんは部屋にあるソファに腰掛けると、私にも促した。言われるがまま座る。
ソファの前にあるぴかぴかのガラスのテーブルには、すでにお茶とお菓子が乗っていた。いつの間に。
帰りに指紋つけて帰ろう。

じーさんが手下さんに目をやると手下さんは一礼して部屋を出ていった。
むむ。目で人を動かすとは。…こいつ、できる。

私は実際若干ビビっていた。だって急に金持ちのじーさんち連れてこられ二人きりだよ。

そわそわと落ち着きなくしそうなのを必死にこらえている私をじーっと眺めていたじーさんは、おもむろに口を開いた。

「キミに頼みたいことというのはだね」

「は、はい」

「キミは今中学3年生だったかな」

「え、ええ」

「ことに、進路は決まっているのかの?」

「は?…まだ決まってませんけど」

そういうと、じーさんはきらりと目を光らせた。

そんな珍しくはない。公立校の受験シーズンはこれからだ、中高一貫でなけりゃ今の時期進路が決まっているなんてあるんだろうか。
にしてもじーさん、ブキミ。

じーさんはずいずいっとソファから身を乗り出し私に顔を近づけた。
もちろん私はのけぞる。誰が好き好んでじーさんと顔をつきあわせたいと思うか。

「わしの頼み、聞いてくれや」

「今聞いてますよおじーちゃん」

私が投げやりにじーちゃん呼ばわりすると、じーさんはますますにんまりした。
笑いが止まらないといった感じ。なんだよ気持ち悪ィ。

私が若干本気で引き始めたころ、じーさんは急に真顔になってまくしたてた。

 

「気に入った!気に入ったぞ!!キミならきっとできる。前にちらと見ただけじゃよく覚えてなかったからのー。
いやー。わしの狙いは当たっておったわ!このふてぶてしい感じがいいのぉ」

どうやら桜川じーさんは私がどんな人物かよく覚えていなかったので呼んでみたと。ていうかツバ飛ばすなよ。
いい迷惑じゃ。…うつった!

「あのー。まだ頼みごとの内容も聞いてないしやるとも言ってないんですけどー。それにふてぶてしいとか若干失礼なこと言わないでくれますー?」

「おっおう。そうじゃったの。うん、わしも半端な人物には任せたくないと思ってキミを連れてきてもらったんじゃ。喜べ、関門突破じゃ。合格!」

「スルーか…しかも言いまわし古いし…いいからとっとと何すりゃいいのか言ってください。
いっときますけど意味わかんない内容だったら容赦なく断って帰りますよ?これでも受験生なんです。時間は惜しいんです」

時間は惜しいとかいいつつ寝てたっていうのは秘密。パジャマ着てるけど。
寝る間を惜しんで勉強してたってことにしよう。
とにかくいい年こいたジジィが渋っても気持ち悪さが増すだけだ。最初の渋いシルバー世代撤回するぞ。
私の視線にやっと気付いたが、エフォンと変な咳払いをしてじーさんはやっと話し始めた。

「頼みというのはのぉ。わしの学校に入学して、ある調査をしてもらいたいんじゃ」

「入学して調査?それって結構時間かかるんじゃないですか?」

「安心せい。きっちりとカネは払う。破格の大盤振る舞いじゃぞ。…3年間で3000万じゃ」

 

さんぜんまん …三千万 …30000000 …サンゼンマン・・・

3000万。

 

 

え。それって単純計算で年収1000万てことかい。¥¥¥¥¥

これは。マジかい?

頭の中でそろばんが激しく動く。

うちの家計を助けるのにかなりな巨額だ。にーさんたちの学費に充ててもまだ余るし、私も夢の海外留学とか、できちゃうかもっ。
弟のたーくんや妹のるーちゃんにもいい学校行かせてあげたいし。
公立も悪くないけど、生きたいとこお金ないっていけなかったらかわいそうだもんね。うん、3000万欲しいわ。

にわかにやる気がみなぎってきたぁぁ!!

「で、じーちゃん、詳しく教えて!」

「ハハハ、そう焦りなさんな」

私の食い付きの良さに、じーさんはにたりと笑いながら依頼内容を語った。

 

  

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