#6 新聞部コンビ・新田&黒沢

 

入学式会場の体育館の前になぜかこそこそと隠れながら続々と出ていく新入生を眺める人間が二人。
カメラを手に、メモ帳を手に。木々に囲まれた体育館を茂みに隠れながらずっと見ている。

「やっぱ新年度初の新聞は新入生ネタで行かなきゃな」

「おう。でも新入生初々しいな〜。若いなー」

「お前平気か?まだ1コ下だぞ」

「うるせぇ。それよりちゃんとチェックしとかないと。新入生ネタは2年の仕事なんだぞ」

「わかってるって。うわー。見ろよ黒沢。あいつゴッツいな〜」

「うわー。マジだよ。あいつって先輩の注目新入生に入ってなかったっけ」

どうやら新聞部らしい。卒業生には実際の記者もいるという由緒正しい部活である。
ただ若干やっぱりというか、芸能記者化して人気者を追いかけたりするせいか一部にはよく思われてなかったりする。
だがそういったネタはみんなが喜ぶのでやっぱりなくならない。

黒沢と呼ばれた生徒は、ゴソゴソと紙を取り出し開いた。紙にはどっから出してきた情報か、新入生の顔写真と名前などのデータが書き込まれている。

「新田見ろよ、こいつじゃね?…有村聖人(ありむらまさと)。9月12日生まれ。身長190センチ、体重98キロ。」

「でかっ」

新田と呼ばれた生徒は目を丸くした。有村という生徒は身長もあるしガタイもいいため余計大きく見える。
新入生にしては彼は堂々としており、それもまた大きく見える原因なのだろう。

「ヤベーよな。バスケ部らしいぜ。でかいわけだよ。うわ。こいつ中学んとき教員殴ったらしいぜ」

「かかわりたくないな」

そんなウラ情報まで載っている謎な紙切れを大事に折りたたみ、黒沢は同感というように頷いた。

「おいあれ、見ろよ!あれは注目株じゃないか!?」

「あ、なに?…あいつか!」

 

にわかに色めきたった二人の視線の先には、線の細い美少年がもう一人の少年と談笑していた。

美少年は細い体をブレザーで包み、さっそうと寮の方向へ歩いて行った。
モデルのようにブレザーがものすごく似合っていた。女生徒が見たら大興奮するだろう。
なにせ男である二人も興奮するくらいだ。と言っても興奮する理由がちょっぴり変だけど。

「あんなやつ先輩のデータにいたか?」

「見落としたのかな」

新田と黒沢はお互いに顔を見合わせた。先輩が見落としている美少年。
これはスクープになる!先輩が注目する前に、何としても彼の情報を手に入れるのだ。

新田は美少年の写真をこっそり撮ると、黒沢とともに大分まばらになった式典会場へと向かった。

「そういえば、今のやつといっしょにいたやつ、紙に書いてあったぞ」

「ああ、こいつか。桜川虎太郎。理事長の孫らしいぜ」

「理事長の孫ともう友達なのか」

「もともと知り合いだったんじゃねーの?…スイマセーン」

新田は受付係のおばさんに声をかけた。しかし黒沢はあせって新田の腕を引っ張り耳打ちする。

「なんて言うつもりなんだよ!」

「まあ任せろって」

 

「何か御用かしら?」

「お疲れ様です。新聞部なんですけど、ちょっとお話しいいですか?」

おばさんはんー、まあいいわよ的に頷いた。新田はにやりと笑って聞いた。

「貴方は今日新入生をたくさん見てこられたと思いますが、その中で一番気になる新入生はいましたか?」

単刀直入な問いに、隣の黒沢が突っつくが、黒沢の思惑をよそにおばさんは目を輝かせてしゃべりだした。

「いたわよォ。すんごくかわいい子。えーっとね、この子よ。中條琉衣君。見た?もう超美少年よ」

「あ、僕らもさっき見ました。遠目からだったのでよく見えなかったんですけど…」

「あら〜。そうなの?よ〜く見た方がいいわよ、あれは目の保養よ。中條君v
しかもすごいいい子だったわよ。私が頑張ってねって言ったら、ありがとうございますって笑ってくれたの。もうすンごいかわいいんだからー!」

「あ、そうですか。お話ありがとうございました。任せて下さい、僕らが彼の特集しますよ」

「ほんと〜?じゃあ楽しみにしてるわねぇ」

まだまだ言い足りなさそうな興奮冷めやらない状況のおばさんを残し二人は逃げた。
おばさんがしゃべっている間に彼の情報は分かるだけメモしていたのだ。そこらへん黒沢はぬかりない。

「それにしてもお前よく言えたな。キレられるかと思ったけど」

「あんな美少年だったらむしろ言いたくなりそうだろ。大体おばちゃんてーのはそういう生き物なんだよ」

「まあ確かに。とりあえずお前が聞いてくれてる間に分かることはメモったぜ。
…中條琉衣(なかじょうるい)。1−Eクラス、出席番号17番。寮生で、部屋は海棟209号室。同室はあの理事長の息子とだ」

「へえ、だから一緒にいたのか」

「みたいだな。それよりどうする、これから?」

「なにボケたこと言ってんだよ。本人にインタビューしに行くにきまってるだろ」

そういって新田は寮へ足を向けた。
黒沢は小走りで追いかけてくる。

「待てよ新田。寮にいるのか?」

「寮のほう向かってただろ、それに寮生なら寮の食堂で飯食おうとするはずだ」

「そうか」

しかし、新田の予想に反して食堂にはそれらしき人物が見当たらない。
まさかもう教室に?いやでも早すぎるし、寮から教室へ行くならすれ違ってもいいはずだ。
二人は新入生に紛れ込んでご飯を食べた。
目は油断なく辺りを見渡し中條琉衣を探す。

新入生たちは散り散りバラバラに黙々と飯を食っている。皆星中学出身の面子は固まって食べている。
新田たちは別中学からの入学者なのでその様子を見て感慨にふけった。

「懐かしいな。あー言う固まったやつらがうらやましく感じられたもんよ」

「だなー…」

そんな話をしていると、見ていた階段からお望みの人物が現れた。
中條琉衣だ。なんて言うか綺羅綺羅しい。
彼は理事長の孫と連れだって昼食を盆に載せ、テーブルに着くと食べ始めた。

新田黒沢コンビは急いで残りをかきこむと、口をむぐむぐさせながら新入生のテーブルへ向かった。

 

 

食堂へ着いた。まだ結構人はいたが、席も空いてそうだ。
コタローとともに盆をとり、おばちゃんが出してくれたカレーをのせ席に向かう。

「いただきまーす」

うん、おいしー。カレーだわ。
これから何があるのかコタローに聞いてみる。コタローはまぁ、担任の自己紹介とか配布物配ったりとかじゃね?と言って、カレーをかきこんだ。

俺も急がないと。食べるのそこまで早くないし…

そう思ってカレーを黙々と食べていると、二人組が近付いてきた。

コタローがなんだろうというように目配せしてくる。俺は肩をすくめた。知り合いじゃない。
あんなニタリ顔の知り合いなんていないはず。おっと失礼。

「中條琉衣君?」

「へ?」

名前を急に呼ばれて、ジャガイモを落としてしまった。
お皿の中で助かった…しょっぱなから制服にカレーのしみなんてカッコ悪すぎる。まあ制服の替えもタダでじーさんくれるだろうけど。

それにしても何で俺の名前を知ってるんだろ?

「えと、俺中條ですけど」

「実は俺たち新聞部の2年なんだけど、新入生の特集で君を取り上げたいと思ってるんだ。話聞いていいかな」

新聞部の先輩?特集??あんまり目立つのは避けたい。でも先輩を無碍に扱っていいものか…うーん。でも時間もないし。
キマリ。

「すみませんが、今は食事中ですので。できれば後にしていただきたいのですが」

「あ…そうか、悪かったな。じゃあまたあとで話聞きに行くからよろしく頼むよ」

「はい」

先輩方は意外にあっさり帰っていった。でも言外にしっかり話を聞くのは確定ってことにされてる。
まあ仕方ないか。俺が目立つのは仕方ないしー?
…実は楽しんでる自分が。忘れるな俺よ、任務はあくまで調査だぞ。

「中條、いいのか?新聞部って結構しつこいぞ」

「まあ平気でしょ。しつこいのをあしらうのは慣れてる」

「あ、そう…」

しつこい奴なんぞごまんといる。もちろん男女問わず…
コタローは詳しく聞いてこない。予想つくらしい。

でも今は感慨にふけっている時間はない。急いで残りを腹に収めて教室へ向かった。

 

  

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