#7 新しいクラスとストライク

 

例の美少年と言葉を交わした二人は、彼の用事が終わるまでテラスで待っていることにした。
ここのテラスは校庭と校舎の玄関が一望できる位置に建っており、生徒は格安でコーヒーや紅茶、軽食が食べられる。

二人はコーヒーを注文し、ふうと一息つく。どちらともなく話しだした。

「にしてもしっかりしてそうな奴だったな。中條君」

「確かに。新入生にしては堂々としてたし」

「でもやっぱ声高かったよな」

「顔も見れば見るほど綺麗な感じで」

「絶対一部に人気でそうだよな」

「あ、大江とか?」

「そーそー」

二人は大江のうわさを思い出し神妙な面持ちになった。
大江弘夢(おおえひろむ)という人物は2年生で、イケメンとして他校にまで名をはせている。
他校の女子にも人気で、休みの日のたびに合コンをしているという噂もあるが、彼がここで出てきたわけは、あるうわさがあるからであった。
その噂というのは、大江がバイセクシャルであるという噂だ。
噂になった相手は、2年の美少年布施恭平(ふせきょうへい)。ちなみに彼は完全にホモらしいが…
布施については恐ろしくて調査できない。新聞部のタブーだ。というか小心者なだけだった。

そこまで考えて、黒沢はふと思い立った。

「まさかあの新入生も布施みたいのだったりして…」

「え。まさか!布施は妖艶な感じではあるけど、中條君はもっと健康的な美少年な感じがしたぞ」

「おま、何そんな必死に否定してんだよ。新入生気に入ったのかー?」

「やめろよ。お前が言い出したんだろ」

「はは、わりぃわりい」

そんな事を話しながら待つ。1時間ほどして、玄関から新入生と思しき生徒たちがばらばらと出てきた。

「おっと。仕事だな」

「おう」

さっそくお目当ての人物を探しに彼らは動き出した。

 

 

クラスでの用事がすみ、まあ特にやることもなくなった俺らは寮に戻ることにした。
配布物のプリントを抱えて生徒たちがばらばらと散っていく。

俺はにやついていた。

チラリと目をやると、彼も戻る支度をしているようだった。

けだるそうにため息をつき、すっと風のように出ていく。
それをついつい目で追いかけているとコタローの声が。

「お前何ドア見つめてんだよ。行くぞ」

「お、おう」

かれ、というのは同じクラスの湊飛鳥(みなとあすか)のことだ。
俺は彼のことを知っている。
向こうが知っているかは知らないけど。多分知らないだろう。

彼は俺のストライク真ん中のカッコいいイケてるメンだ。

中2の秋、たまたま近くで行われたバスケの関東大会を見に行った時のこと。
その中で一番眼を奪われた。
まぁナイスなスタイルもそうだけど、身のこなしとか、バスケしてる時のシュートフォームとか、
なんかすべてが…目が離せなくて。
そう、俺はあの時初めて恋した。

それまで、俺は自分よりイカス男はいない(まああくまで男らしさの面での話だが)と思ってたけど。
でも、彼だけは違った。
なんていうか、自分基準では比較できない感じ。よく知らないっていうのもあるけど…

学校も調べてわざわざ試合を見に行ったこともあった。
でも話しかけることはできなかった。
それくらい好きだった。
俺の理想だったんだ。たぶんね。
いつもみんなの前では王子様がいいとは言っているけど…それとこれとは別問題。

部活引退してからはじーさんの依頼のこともあって彼のこと忘れてたけど、今日クラスメートたちの自己紹介を聞いて驚いた。

「湊飛鳥。よろしく」

そっけない。でもそれがカッコいい!テンションあげあげ!
もう目がはがれません。
ガン見
もう他人の自己紹介なんか聞いてられません!
ヤベー!お約束過ぎる!
好きな人と同じクラス。
このシチュエーションはやばいね。

と、思ってついついニヤけてしまうというわけだ。

しかし。

と気を引き締めてみる。

今の俺は男だ。いくら彼が好きでも男であるからには妖しの恋になってしまう。
ああーーーーー!禁断だぁぁぁ。。。
そんな関係性、
萌えー。いや俺にそんな趣味はない。使ってみたかっただけ♪

とりあえず、仲良くなろうっと。

 

「あ、中條。…新聞部だぜ」

「お?」

妄想世界へのトリップから無事帰還した俺は我に返った。

そういえばさっき見た顔がこっちに近づいてくる。
めんどくせー。
まあそうは言っても注目されるのは嫌じゃないぜ。ふっふっふ。
やばい湊君効果。テンションがやべぇ。

「やあ中條君。クラスはどうだった?そこらへんの話も聞かせてもらいたいんだよね」

もみ手でにこにこと聞いてくる二人組。
俺は逃げようとしたコタローをひっ連れてインタヴューに答えることにした。

 

ふぇー…

寮に帰りついた俺らは部屋にもどり、二人してベットへダイブした。
あいつら(っていうか先輩だけど)、しつっこい!
生年月日、身長体重、危うくスリーサイズまで行くかと思った。
俺は身元がばれちゃいけない人間だから、あんまり根掘り葉掘り聞かれるとまずい。
出身校や家族構成、果ては彼女の有無まで聞かれたよ。
出身校に関しては足がつかない海外の学校出身てことになってるからあんま言えないし。
海外からって言ったら英語しゃべれと催促されるわ、言ったこともない学校の話させられる話でさんざんだった。
コタローなんかもうヒヤヒヤしすぎて顔がひきつってた。あれはちょっとおもしろかったなーなんて。
じーさんの先読みで英会話と学校の下調べしてなかったらぼろが出たかもしれない。

そんな感じでもう疲れた!しつこい男は嫌われるんだぞ!
写真はもう3ケタ行くかぐらい撮られたし。

「だから言ったじゃん…しつこいって」

「知ってる…」

コタローはもうぐったりな感じ。キミもなかなか根性ないな。俺もぐったりだけど。

「腹減った。飯食いてー」

「6時からだろ?アー今日から寮生活かー」

そういいながらベッドに転がって目をつぶる。
まだ4時だ。夕食までまだ2時間もある。

慣れない緊張で疲れたし、ちょっと寝とこうかな…

と寝心地の良い体勢へともぞもぞ動いていると、ぴんぽんぱんと放送が入った。
何人かの男子生徒の声がかわるがわる聞こえてくる。

『新入生のみなさん、本日はお疲れ様でございました!』

『寮の様子はどうですか〜?』

『私たちは君たち新寮生をだぁ〜い歓迎いたしますっ!』

『えーつきましては、4時半よりキミたち新寮生の歓迎会をとりおこないたいと思います!!』

『イエーイ!パフッパフッ!』

しゃべっている人の後ろから変な効果音。3人ぐらい盛り上げ役がいるらしい。

『寮生活の思い出のはじめの一歩です!ぜひご参加を♪』

『寮や学校の説明とかもやりますよん。ウフッ』

『ではー体育館までおこしくださぁーい』

ぴんぽんぱんぽん

「コタロー」

「なんだ?」

「今のなに?」

「寮のイベントだろ」

「コタロー行く?」

「行くぜ。寮でのつながりは作っといて損はないからな」

「ははぁなるほど…」

さすが皆星中学出身。よくわかってらっしゃる。
ふと疑問がわいたので聞いてみた。

「寮生ってやっぱ寮じゃないのと違うのか?」

「違うねー。なんつか、仲間意識っていうのかな。ホラ、やっぱほとんど一緒に暮らしてるよーなもんだろ?」

コタローは寮について教えてくれた。

ここの寮は学生の3分の1が生活しているらしい。
寮生同士の結束は固く特にテスト前などでは情報の周りなどで特に威力を発揮するそうだ。
寮生、非寮生では特に対立関係はないが、寮生同士はつるみやすい。
棟ごとに長と副長がおり、寮母と連絡を取り合う。また全寮の寮長が別に一人いる。
それはここでは大きなステータスであり、寮長は生徒会長並みの権限を持つ。
そのせいか寮長グループ(別名を皆星軍というそうだ)と生徒会の中はあんまりよくない。
寮でのイベントは豊富。それも寮長が企画する。寮長は指名制で、毎年の1大イベントになっているらしい。

「ふーん。じゃあ今の放送の人たちは…」

「皆星軍だろ。全寮長と、各棟…ていうか今は空と陸棟だけだけど、の寮長、それから各棟の副長たちで今は5人いるはずだ」

「何で軍なわけ?」

「そりゃ棟の名前が海空陸だからな」

「…な、なるほど」

まあ確かにわからないでもないけど、軍なんて名前じゃ右翼みたいじゃん。
アブなそう…

「ま、さっきも言ったよーに寮生でつながりを作っとくとテストのときとか楽だぞー」

「それもそうだな。テストは情報戦だし」

俺も中学の頃、先輩にテストの情報を流してもらってたな。特に実技4教科のやつとか。
バスケ部には代々の先輩方が残してくれた過去問があって、俺らの担任と同じだった3年前の先輩の過去問とかとてつもなく役に立った思い出がある。
俺もそれに感謝してとっといたテスト問題を置き土産にした思い出が…。
きっと今年の新一年生の役に立ってくれることだろう。
俺がそう感慨にふけっていると、何を納得したかコタローもしみじみ頷いた。

「そのとおり。じゃそろそろ行こうぜ」

 

  

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