#8 皆星軍による歓迎会

コタローとともに寮から少し行ったところにある体育館に向かう。
ここの体育館は最近改装したばかりということできれいで広い。よく運動部の試合会場になってるらしい。
入ると、何人かパラパラ人が集まってきていた。
先ほど食堂で見た時よりもひとりでいる人が少ない。あたらしいクラスでもう友達ができたのだろう。
そういえば湊君に夢中で友達つくんの忘れてた。
よし、この場で頑張って作るべし!

俺が気合を入れて見まわす間に、コタローは中学時代の友達とあいさつしてたりした。

コタローは俺を呼んで、友達を紹介した。

「こいつ、俺の中学からのダチの中川」

「あ、どーも。俺は中條っていいます。よろしく!」

「ああ、中條か、苗字ちけーじゃん。俺A組。よろしくな!」

やっぱりコタローの友達はコタローみたいでさわやかだ。テニス部なのか、小麦色の肌に白い歯の笑顔がまぶしい。
うんうん。いいねー友達づくり♪
中川を交えて3人で周りの人を見つつ話していた。

湊君いないなー。寮生じゃないのかなぁ。
そう思いつつ話していると、体育館の電気が消えステージ上にスポットライトが輝きだした。
何の演出じゃーと思ってみていると、変な衣装…ていうかぴっちりした戦隊モノのスーツに身を包んだカラフルな5人が決めポーズで現れた。

と思ったら急に曲が流れだし、1列に並んでエ●ザイルのまねをしながら踊り出す。(なんか動きにキレのない人もいれば無駄に張り切ってる隊員もいた)
歌が始まるぞ!というところになって5人が横に並び、扇形を作った。
いかにも黒子ですみたいなアシスタントがマイクを持って中央(赤)へ向ける。

「しんにゅーせーの諸君!」

「入学おめでとう!」

「そして…」

無駄な溜めが入り、黒子がいなくなる。

「入寮、おめでとう!!」

戦隊は大声を張り上げた後倒れた。

俺はいまいち演出の意図が読めなかったが、とりあえず拍手をしておいた。

つぶれた扇戦隊はよろよろバラバラに起き上がり、最初に起き上がったたぶんリーダーの赤は、いつの間にか持っていたマイク片手に挨拶をした。

「えー。俺たちはこの寮の寮長たちで構成された、寮長会のメンバー、通称皆星軍だ!

入寮したおまえたちも今日から寮の一員として、皆星軍一同楽しい寮生活を送ってもらえるよう尽力する!」

赤は戦隊マスクをとり、ずずいと前に進み出ながら不敵な笑みを浮かべた。
赤の顔はカリスマ性がありそうな強気イケメンといったところだ。この学校、意外にイケメン多い?ただ赤い戦隊スーツじゃなぁ…

「ちなみに俺は、皆星軍のリーダー。全寮長の金城将星(かねしろしょうせい)だ」

次に青が前にゆっくり進み出て、マスクをとる。
青は物腰柔らかそうで読書の似合いそうなキレイめ少年だった。

「えー、僕は遊佐楓(ゆさかえで)です。陸棟寮長です。生徒会役員もやってます。どうぞよろしく」

次に前に来たのは黄色だった。黄色はツンツンの茶髪で、元気なお茶らけキャラといった容貌をしていた。

「俺は空棟寮長の渡部嘉樹(わたべよしき)でーす!どもー♪仲よくやろーぜ!」

そのあと、空と海の副寮長がカルく自己紹介した。その後リーダー金城先輩がマイクを奪い、寮について軽く説明した。でもコタローから聞いてたことぐらいしかいってなかったので聞いてなかった。ハハッ。

「…ところでおまえたちのいる海棟の寮長。これについては5月あたりに皆星軍が話し合い指名することになっている。皆星軍に入りたくばいろいろアピールしてこい」

皆星軍かー…名前的にあんまり入りたくない感じかも。
まぁ入った方がいろいろ調査しやすそうだけど。

「桜川、お前また入んの?」

中川が言っている。ん?コタローって入ってたことあんのかな?

「んー?指名されればね」

「コタローお前、皆星軍いたことあんのか」

俺の問いに、コタローはガシガシと頭をかきながら答えた。

「まー中学んときに指名されちゃってね。そんときは皆星軍て名前じゃないけど」

そっか、コタロー中学から寮だったんだ。おまけに理事長の孫だしな。いや、関係あるか知らないけど。

そんな事を話していると、金城先輩の声が響いた。

「では。せっかく集まった…クラスごとに集まって仲間意識を高めておこうじゃないか。
こちらからA組…G組と集まれ」

言われるがまま新入生たちがぞろぞろノロノロ動き出す。

中川はじゃあなーと言って行ってしまった。俺とコタローも流れに乗って進む。

E組の場所に着くと何人かすでに座っていた。

俺も微妙な気まずさを感じつつ座る。コタローも「E組の寮生には知り合いいねーんだよな〜」とぼやいていた。
みんなあらかた座り終わる中、ざわつくほかの組に比べE組は妙に人数が少なかった。
髪を明るくしたチャラそうな男とその友達の3人組がぺらっと話しているくらいで、あとは地味系の二人組がぼそぼそ話し、残りの一人はポツと座っている。占めて全8名。
多そうなところは20人ぐらいいそうなのにずいぶんさびしい。

この場にいるほとんどが気まずい空気を感じる中、金城先輩の低めの美声が響く。

「集まったのがお前らの寮仲間だ。これからお前たちには何度か共同作業をしてもらうこともある。仲良くやることだ」

そこまで言って、遊佐先輩にバトンタッチする。

「えーと、いろいろ初対面に近い部分もあると思うので、まずは自己紹介がてらいろいろ話してもらってクラスの寮リーダーを決めてもらいます。あ、でも今日はリーダーを決めるまではいかなくてもいいので、いろいろ自由に話していてください。トークテーマは渡部に発表してもらいます」

「え?俺?」

渡部先輩は予想してなかったらしく裏返った声を出す。
突然ふられた人特有の慌てふためきっぷりで、えーとえーとと言いながらトークテーマが発表された。
「えー。じゃぁ…テーマは、
ハツコイについて〜♪」

 

「…」

 

「…と、いうわけだけど。誰から話す?」

四方八方がざわめき出してからたっぷり10秒、誰も話さないので、俺は痺れを切らしていった。
コタローがふぅ〜っと大きく息をつく。

「言いだしっぺが言うもんじゃね?」

いったのはちゃらめな男だった。クラスでの自己紹介はまともに聞いてなかったので誰だか分らない。
そうじゃね?と言わんばかりに周りの仲間に目配せをする。
なんかちょっとムッときたが、とりあえず言われたとおりにする。

「俺は中條琉衣。さそり座のA型。趣味は寝ること食べること。特技はんー…体がやわらかいことかな」

隣でコタローがへぇと言ってるのが聞こえた。チャラ男はにやにやしながら、「ハツコイは?」と聞いた。

「ハツコイ…初恋…」

悩むー。だって俺、初恋湊君だし。そんなこと言えないし。大体俺女だし。
コタローがどう助け船を出そうか頭を激しく回転させているのがなんとなくわかる。でも難しいなこの状況。

「ハツコイまだなんでちゅかー?オコチャマだなー」

「いやいや、意外にませてておぼえてないほど昔なんじゃね?」

チャラ男と仲間たちは好き勝手言っている。むー。
でも何かしら言わなけりゃいけないので、俺はよく知っている親友のことを挙げてみることにした。

「俺の初恋は幼馴染だ。それはそれはかわいらしい子で、いつも俺の後ろをついて回ってた…。

幼馴染は色白で細くて、眼はぱっちりで、やっぱよくモテてたなー。」

俺の親友は確かに幼馴染だし、俺が男だったら確かに惚れるだろう美少女だし、俺の後ろをついて回ってたのもほんと。
う、嘘は言ってねー。

と言い聞かせてみる者の若干しどろもどろ。えへっ。

チャラ男たちは相変わらずニヤつき、コタローはハラハラした様子で、残りは愛想笑いしてた。

「それで?」

チャラ男たちが続きをせかしてくる。
うーんと脳みそをフル回転させ、中條琉衣の初恋をねつ造しようと頑張る。

「あいつが近所の悪ガキにいじめられてそれを俺が助けた。そっから仲良くなってだな…」

ここまでは事実。
ヲトメモードで妄想しようにも、なんか自分のこととして話すと思うとやる気が起きないな…。

「まぁ、色々あってかなり仲良いよ」

「え、じゃあ今も付き合ってんのかよ」

「うーん。まー。そうだなー」

いいや、どうせわかんないだろうしねつ造だ。

「まー俺のことはあとは個人的に聞いてください。次の方どぞ。」

無理やり次に回す。

チャラ男のにやにや笑いにより、何となく俺の隣にいるコタローが次の方になった。

コタローの初恋は幼稚園の時らしい。意外にませてんなコタロー。
コタローと色恋沙汰ってあんま似合わないからついニヤニヤしてしまった。
そんな俺をジト目で見るコタローだった。

次に自己紹介したのは地味めの二人組。
眼鏡をかけた方が川井。髪の長めな佐々木。二人はぼそぼそと初恋はまだといった。
チャラ男たちが小さく「どうせアニメキャラだろ」とか言ってたのでなんか言ってやろうかと思ったが、それも不憫な気がしてやめた。

次は一人でぽつんとしてたおとなしそうな少年だった。

「ええっと、こ、小滝総太(こたきそうた)です。初恋・・・はま、まだです」

おどおどしてていじめられそうなタイプだ。背も低めで顔立ちはかわいらしい。共学に行けばオネエサン方にモテそうだが、あいにくここは男子校。
やっぱりにへらと笑うチャラ男団がからかい混じりにいろいろ言う。

「へぇ〜まだなんだ。顔に似合わずやることやってんじゃないかと予想してたんだけどなー。外れたぜ」

「なー」

「・・・」

小滝の顔がゆがむ。泣いちゃうんじゃないかコイツ。
でも前の二人が初恋ないですって言ってたらおとなしい人は言いづらくなっちゃいそうだな。

「え、やっぱりチューもまだですかー?」

「えっ。あの・・・」

なおもにへらと言いつのるチャラ男にムカついたので俺は言った。

「あんたいちいちウルサイんだけど」

「なんだとてめぇ」

「キモいこと聞いてんじゃねーよ。言いたい奴は勝手に言うんだから言わないやつに変なこと聞くな」

「な、別にいーだろ!俺はね。小滝くんと仲良くなりたくて聞いてるんだぜ?」

「ならなおさらだろ。あんたは初対面でしかもみんなの前でそんなパーソナルなこと聞かれて仲良くしたいと思うか?」

「そんなの分かんねーだろ!聞いてほしい奴もいるかもしれねーじゃねーか」

「フン。じゃーあんたはどうなんだ。仲良くしたくないけど聞いてやるよ。早く自己紹介しろ」

チャラ男は怒って顔を真っ赤にしている。
仲間も俺をにらみつける。俺もにらみ返してやった。
小滝本人はあああ、どうしようといった表情。残りは完全に入ってくる気がない。
コタローだけがやめてくれーと視線で訴えてくる。
チャラ男は長めの髪をかきあげいらついた表情で言った。

「俺は瀬戸慶一(せとけいいち)。B型。趣味はギター。初恋は…近所のねーちゃんだ」

初恋は…でどもるところは多少純な部分を感じさせる。
俺はにやにやしながらいろいろ聞いてみた。

「それはいつの時ですかー」

「…小5だよ」

「それでどうしたんですかー」

「別に何もねーよ!」

「へぇえ。じゃぁもちろんチューもなかったんですね!」

「当たり前だろ!」

「ふーん」

俺は特に興味がわかなかったので質問をやめた。
そんな俺の様子にますますチャラ男が怒り出した。

「てめー、聞いといてなんだその態度はっ」

「え?なに?」

「きぃーっ!!・・・」

むしゃくしゃするのか頭をかきむしり反論しようと口をあけるチャラ男改め瀬戸。
しかし金城先輩のマイクの声によりかき消されたのであった。

「諸君。時間が迫っているのでまだの奴は早く名前だけでも名乗っておけ。
どこのクラスだか知らんが初対面で争うものじゃないぞ。…ではあと10分程度時間をとる」

どこのクラスだか知らないけど喧嘩がおこってるらしい。
やっぱ男子校って血なまぐさい…じゃなくて、けんかっ早いのかなー。

「チッ。おい、お前らさっさと自己紹介しちまえよ」

こっちを見て舌打ちする瀬戸が子分を小突いた。
なんか機嫌の悪い親分をもったかわいそーな子分達は、茶髪のロン毛が小柳で、ツンツンヘアが中村だそうだ。
二人して初恋については流した。ずるい。

そしてふたたび城先輩の声が朗々と響きわたる。

「では、もうすぐ夕食の時間になる。後の親睦は食事をとりながら行ってくれ」

 

その声で男たちは解散した。

 

  

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